「文次郎、いいか」 「おう」 朝、食堂で朝飯を食っていると、仙蔵がやってきて俺の前に座る。 俺は軽く返事をして仙蔵を見ずに白米を口にかき込んでいたが、何やら仙蔵から視線を感じて手を止め「なんだよ」と視線を移した。しかし仙蔵は「別に」とニコニコ笑っているだけだ。なんだ、気色悪い。 若干の居心地の悪さを感じながら、朝食を口に運ぶ作業を再開させる。いやしかし、思えば何やら今日はやたらと周りが俺を見てくるようなきがする。目の前の仙蔵、斜め前に座っている五年、それに横に座っている二年からも……。いったいなんだっていうんだ。 「おい、仙蔵……」 目の前でまだニコニコ、いや、にやにやに近い笑みを浮かべている仙蔵に声をかけたとほぼ同時に、頭上から「おっはよー」と間抜けな声が聞こえた。声の方を向けば、やはりというか当然というか、朝食が乗ったトレーを持ったみょうじがいた。 「ここあいてる?」 「ああ、なまえかおはよう。文次郎の横なら空いてるぞ」 「え?仙蔵君の横も空いてるじゃん」 「気のせいだ」 「ええー……ま、でも気にせず座るもんね」 そういって仙蔵の隣に座るみょうじに、なんとなく「なんだよ俺の隣は嫌なのかよ」と尋ねれば、仙蔵や周りの視線がバッと一斉に俺に集まる。あまりの集まりようにたじろいでいると、仙蔵が「ふぅんまんざらでもなさそうだな」と呟いた。その言葉に、もくもくと朝食を食べていたみょうじが「何がー?」と反応する。すると仙蔵は少し考えてから、みょうじにこそこそと耳打ちしだしす。お、おい顔近すぎるだろ。 「えっ、えぇえぇえええぇえ!?」 こそこそと耳打ちが終わったと思えば、いきなりみょうじがガタンと立ち上がり叫ぶ。そして暫くぼーっ突っ立ってたと思えば、ストンと椅子に戻った。 「ど、どういうこと」 「どういうこともなにも、そのままだ」 「あーあ……」 「お、おいどうしたんだよ」 「いったいなんなんだよ」とみょうじに尋ねると、みょうじは俺の顔を困ったように見てから、仙蔵を見た。それに仙蔵はまたみょうじの耳元に顔をよせ、こそこそと何か言う。すると、見る見るうちに困った表情をしていたのが、さっきの仙蔵のようにニヤニヤとしたものに変わった。 「いや、なんでも」 「なんでも無いって顔じゃねぇだろうが」 「うふふ、そんなにカッカしてると後輩に怖がられちゃうぞぉ〜!あ・な・た」 「カッカなんかしてね……は?」 みょうじのその言い返そうとしたが、それよりも変な単語が聞こえた気がして「は?」と聞き返す。すると、みょうじはニッコリ笑って「カッカしてるじゃないの〜あーなーた!」と、言った。周りからガタガタと音がし、仙蔵は腹を抱えて静かに痙攣している。 「ふ、くくく、やはりなまえと文次郎はそういう関係と言うことか、くくっ」 「どういう事だよ!!」 「何かさ、この前のこと勘違いした左門君と三之助君から私と文次郎君が恋仲だって噂が立ってるようだよあなた」 「は、はぁあ!?てかそのあなたって言うのやめろバカタレ!」 「えー私とあなたの仲じゃないですかあなたー!」 「くっ、くくく、く、あはははは!!」 「みょうじやめろ!!仙蔵も笑うな!」 あなたあなたと連発するみょうじと、笑い続ける仙蔵。俺はこの二人をどうしたものかと頭を抱えた。 しばらくすると、みょうじが「あー楽しかった」と満足げな笑みを浮かべながら言う。俺は「何にも楽しくねぇ!」と返すが、みょうじは気にする様子もなく「まぁいいじゃん」と言った。 「みんなも冗談って分かってるよ」 「冗談だったのか?」 「えっ、仙蔵君本気だと思ってたの?」 「まぁ、本気なら面白いとは思っていた」 「ですってあなた」 「はぁ……勘弁してくれ」 |