「作兵衛ー!左門ー!どこ行っちまったんだー!?」

すぐそばの茂みからそんな声が聞こえた。そして、文次郎君の「次屋、か……」とつぶやく声が聞こえる。「次屋?」と聞こうとした瞬間、ガサガサと大きく茂みが揺れて、バッと萌黄色の忍び装束をまとった忍たまがまた飛び出してきた。
左門君が「三之助!」と声を上げる。どうやら今飛び出してきた子は次屋三之助というようだ。

「あ、左門!」
「三之助ー!」
「それに、潮江先輩と事務のなまえさん。こんなところで何をしてるんですか?」


さっきの左門君とほぼ同じことを聞く次屋にもう一度文次郎君が「それは俺のセリフだ」と言えば三之助君はおとなしく「はぁ」と言う。そして次に左門君が「探したんだぞ!」と三之助君にずいとよった。

「まったく!三之助と作兵衛が迷子になるから探したんだぞ!」
「違うだろ!左門と作兵衛が迷子になったんだ!」
「いや、三之助と作兵衛だ!」
「いや、左門と作兵衛!」
「違う!」
「違う!」


左門君と次屋君がどちらが迷子かということで言い争いを始める。
私はそれを止めようとするけど、どう止めればいいかわからなくて、ただ二人のそばでおろおろとするだけだ。すると、「はぁ」とまた文次郎君がため息をついて、スッと息をすった。

「だーーーーーッ!!」
「おあっ!」
「うわぁ!」
「おおぁっ!」

おっきな声でそういきなり文次郎君が叫ぶので、左門君と三之助君だけでなく私もびっくりして声を上げた。

「オイ何でみょうじがビビるんだ」
「いや、声おっきくてさぁ」

ドッドッドと大きな音をたてる心臓を押さえてそう答えれば、文次郎君は「バカタレ」と呆れたように言って、そして左門君と三之助君のほうを向いて口を開いた。

「お前ら二人ともが迷子なんだ!!富松が探してるだろうからさっさと学園に戻れ!!」
「はい!」
「はーい!」

文次郎君にそういわれ、手を挙げて返事をしてクルリと方向転換する二人。
しかし、二人とも向いている方向は違う。これは何だか嫌な予感がする。


「忍術学園はこっちかー!」
「あっちだー!」
「だー!!違うだろうがバカタレェェエェ!!」

予感があたり、ダッとそれぞれ違う方向へと走りだそうとする二人の首根っこを素早く文次郎君がつかむ。しかし、つかまれている本人達は「あれ?」となぜそうなっているのかわからないようである。


「無自覚な方向音痴と決断力のある方向音痴のお前らだけで帰れなんて言った俺がバカふだった!」
「こっちだと思ったんですけど」
「俺も」
「文次郎君、送ってあげたほうがいいかもね」
「そう、だな……」


はぁ、とまた文次郎君がため息をついた。






右手は左門君、左手は次屋君と手をつないで山を下りていると、左門君が「で、なまえさんは何で潮江千敗とあんなところにいたんですか?」と尋ねてきた。それに次屋君も「俺も気になります」と言う。
二人ともとっても知りたそうなまなざしを私に向けるのだけど「元の世界に帰る手がかり探してたの」とは言えない。ちらりと文次郎君を見れば、何とも言えない顔をしていた。


「何でですか?」
「何してたんですか?」
「んー、内緒」
「内緒」
「ですか」
「うん、内緒」


内緒とは無理があるかな、と思うがそこはあんまり言いたくないんだと言う事を悟っていただこう。しめにえへへ、と笑って誤魔化せば、左門君と三之助君は無言で見つめあって、コクンとうなづきあい「わかりました」と言った。


「わかりました。なまえさんがそういうなら」
「俺たちも詮索はしません」
「え、うん、ありがとう」
「なまえさんと潮江先輩がそういう関係だと言う事は俺たち皆にも黙っておきますから」
「うん、ありがと……ん?」
「俺も左門も口は堅いほうですから」

キリッとそういう左門君と三之助君だが、何だか、あれ、おかしくない?文次郎君もなんかすごい顔してるよ。

「なんかちょっと勘違いして、ない?」
「お、お前ら……」
「潮江先輩、ご心配なく!潮江先輩が忍の三禁を破っていたとしても」
「潮江先輩は潮江先輩です!!!」
「バッ、バカ、」
「文次郎君……?」
「バカタレーーーー!!!!」