あ、私の人生終わった。

そう思って、頭が真っ白になりかけたとき、ドッという鈍い音がして、私を囲んでいた男達がいきなりうめき出した。
暗くてよく見えないが、なにやら男達の肩や腕や足に何かが刺さっている。それから、さっきまで掴まれていた腕も髪も離されて自由になっていることに気づいた。

なに、これ、よくわかんない。けどチャンスだ。このままここにいても殺されるか、次は私に何かが飛んでくるかだ。畜生。足掻いてやる!

そう心の中で決意して、思い切り持っていた鞄で私の前髪を掴んでいた男の頭を殴る。
「ぎゃっ」と男は叫んで、あっけなくこけた。どうも何かが腕に突然刺さった事で相当動揺してるらしい。

私は酷く痛む足を庇うこともせず、その場から逃げ出す。
しばらくは走るように逃げるが、やっぱり足が痛くて痛くて引きずるようになる。この速度じゃまた追いつかれるかもしれないと心配になるが、私を追いかけてくる足音も声も聞こえない。もう大丈夫なのかも。と思ったその時

「おい」

背後から呼びかけられてビクリと肩が跳ねる。うそ、追いつかれた?でも足音なんて全然…
恐る恐る、振り返ると男が居た
ヒヤリと嫌な汗が背中を伝う。
さっきの男達の中には居なかった男だ。緑色の着物、しかも、この男は頭も口も布で覆っていて、目しか見えていない。
怪しい。すごく怪しい。さっきの男達の仲間?それとも別のやつ?
やんのか?やるならこいよ!と強がってギロリと男を睨む。
すると男はため息を一つ吐いて、話しだした。

「俺は山賊ではない。あいつらなら追い払った。もう大丈夫だ。」
「ほ、ほんと?」
「ああ、本当だ」


それを聞いて私は安心して、一気に身体の力が抜けてしまった。「こ、怖かった」と無意識につぶやいてへなりと地面に座り込む。
男がそろりと近づいてくる。

「おまえは…」
「ありがとうございます」
「あ、ああ?」

とりあえずそばに来た男にお礼を言う。助けてくれたんだから、お礼を言うのは当たり前だ。それから「本当に死ぬかと思った」と私は自嘲的に笑った。笑うとこでは無いのは分かっているが、なんというか、もう笑うしかない。

「いや、たまたま通りかかったからな」
「いやぁ、本当にありがとうございます」
「あ、ああ。それより聞きたいのだが…」


男は私の礼を軽く受け、いくつか質問をしてきた。まずは「おまえは何者か」と聞かれたのでとりあえず自分の名前を答える。次に「何処から来たのか、何故ここに来たのか」と聞かれて、答えようとするが、自分でも何でこんなことになったのか分からなくて、「学校にいたんだけど、でもよくわからなくて、気づいたらここにいて、ていうかここはどこなんですか?」と支離滅裂に答えを返した。

「ほんと、意味わかんなくて、いきなり、襲われて、私、何で…」

自分はこんな状況でも案外冷静だとも思っていたが、どうもそうでもなく、結構混乱しているようだ。いや、まあこんな状態で冷静だったらそいつはすごい鋼のハートの持ち主だと思うよ!

「このままではラチがあかんな。場所を移動しよう。立てるか?」
「え、と。はい。立てます」

足を気にして恐る恐る立ち上がる。立てるが、かなり痛い。これで歩いて移動しなければいけないのか、と考えると、無意識に顔が歪む。
が、男は私の考えても無かった事をした。

「その足では動けんな。よし、少しの間我慢しろ」
そう言って男は私をひょいっと抱える。世にいう"お姫様抱っこ"などと言う可愛いものではなく、まるで米俵のように、だ。男はうろたえ、「重いですよ!」とか「そんな無茶な!」とか騒ぐ私を完璧に無視し、「すこし走るぞ。」と言った。

「口は閉じておけ。舌を噛むぞ」
「え、ちょ、ま……んがっ!」


いった。舌噛んだ。