昼休み。昼食を食べ終え、何かすることはないかとぶらぶら校庭を私と雷蔵と八左ヱ門とで歩いていると、きゃあきゃあと楽しそうにサッカーをする一年は組の姿を見つけた。それだけならなんて事ない風景だが、水色の忍装束のまだ小さな一年にまじり、一人飛び抜けてでかいのがいる。
あれはなまえだ。
一年と一緒になって笑いながらバタバタとボールを追いかけている。
あぁあ、着物が着崩れているじゃないか。まったく。女だというのに本当にしおらしさがない奴だ。なんて思いながらその姿を見て入いると、雷蔵もそれに気づいたのか、「あぁ」と笑った。


「なまえちゃん、元気だなあ」
「ほんと、猪のように動き回っているな」


とそう言えば、雷蔵は「怒られるよ、三郎」と 苦笑いして言った。本当のことじゃないか。
3人でしばらくその姿を見ていると、八左ヱ門が「そういえばさ」と口を開いた。

「なまえちゃん、最近なんか変わったよな。なんか、明るくなったっつーかさ。まあもとから明るかったけど、より一層というか」
「ああ、確かにわかるかも」

そんな事を言っていると、
なまえが「ミラクルスペシャルワンダフルシュート!」と叫びながら豪快にボールを蹴るのが見えた。蹴られたボールは弧を描いてちょうどとおりがかった潮江先輩の頭へと勢い良く落ちてゆく。が、流石学園一ギンギンに忍者していると言われる潮江先輩だ。素早く体を翻しボールをキャッチした。そして、ボールを蹴ったなまえをキッと睨む。

「みょうじ……」
「おー!文次郎君すげぇー!」
「すげえー!じゃないだろうが!お前はもっと周りを見ろバカタレ!」

ガミガミと怒られ「すみませぇん」と情けなく小さくなるなまえ。まったく、潮江先輩とどちらが年上なのやら……。
その姿を見て3人でくすくすと笑っていると、怒られ終えたなまえがこちらをまるで先ほどの潮江先輩のように鋭い目をしてキッと睨んだ。


「そこの5年生!なに笑ってる!」
「おい三郎が笑うから!」
「いや、雷蔵だ」
「三郎もだろ!」
「君たち3人だよ!!」


不機嫌な様子で、こちらを指差すなまえに、私たちはより一層くすくす、いや、ケラケラと笑った。

「ちょっとひどくない!笑ってないで文次郎君から守ってくれても良くない!?」
「俺たちが先輩に逆らえるわけないだろ。ていうか自業自得だ」
「三郎君は何でそんなに意地悪なのか!」
「意地悪じゃあない」
「あのとき『今まで悪かったこれからはよろしくしてくれ』って言ったのは嘘だったんだな!」
「は、はぁ!?」
「おほー、三郎そんなこと言ったんだ」
「三郎は素直じゃないからなぁ」
「そんなことばっかしてると女の子に嫌われるぞ!」
「いや、ちがっ、ていうかお前らなぁ!」

私が「黙れ!」となまえの顎をつかんでガクガク揺さぶっていると、そんなことお構い無しに「そういえばなまえちゃんあの南蛮の服やめたの?」と雷蔵が言った。

「そういえばそうだな」
「ったたた!三郎コラ!……うん、この前、小松田さんに墨かけられて、汚れちゃったし、この機会に着物にしたんだ」
「あはは、小松田さんか」
「にしても可愛いじゃないか」
「え?ほんと三郎くん!?似合ってる!?」
「"着物が"かわいい」
「くそ……っ!」

そうちょっと意地悪くいえば、なまえはぎりりと私を睨む。雷蔵と八が「なまえちゃんも可愛いよ!」「うんうん!だから落ち込むなよ」と慰めるが、なまえは「お世辞はいいっす」とさらにガクリと肩を落とした。

「まあ、着物が褒められただけで私は嬉しいよ」
「これ、なまえちゃんが選んだの?」
「ううん、違うよ」

雷蔵の質問になまえは首をふる。「じゃあ誰が?」と八が尋ねると、なまえは「この着物はね」と答えるが、その口からでたのは信じられない名前だった。

「文次郎君が選んでくれた」
「なっあ、あの潮江先輩が!?」
「えぇ!あの潮江先輩が!」
「嘘だろ!?」
「え?なに?そんな驚く事!?」

何がおかしいのという顔をしているが、まさか、あの潮江が女に着物を選んでやるなんて、予想外にもほどがある。

「なまえちゃんて、ほんと潮江先輩に可愛がられてるよね」
「あれ、雷蔵君さっきの見てた?私文次郎君にボロクソ言われてたよ」
「まあ、それも含めてさ」
「そうかなー?そうなの?ってか私のほうが歳上なんだけど!」
「それは、なぁ?」
「竹谷八左ヱ門。どういう意味だそれは」

「あん?」と顔をしかめて八に詰め寄り、頬をぐいぐいつかむなまえ。不機嫌を装ってはいるが、楽しそうだ。
思えば、最初は敬語を使いがちで、しおらしかったのに、今ではこれだ。まあ、最初のうちに距離を置くのは分かる。が、なまえがこうやって素を出すようになったのはいつからだったか。
多分、あの一件があってからだろう。なまえの素も、隠していた本心も、引き出したのはきっと潮江先輩だ。

「なんか悔しいな……」
「?、どうかした?」
「いや、何でもないさ」
「ふうん」
「ところでそろそろ八を許してやれよ」
「やだよ八ちゃんのほっぺたぷにぷに」
「なんへそうふはっはへ」
「八、なんて言ってるかわかんないよ」