カーンと鐘の音が学園に響く。どうやらこれで今日の授業は終わりらしい。小松田さんが「僕らももう終わろうか」というので、うなづいてさっと自分のまわりを片付ける。
そういえば、文次郎が授業が終わったら迎えに来るって言ってけど、私はどこにいたらいいんだろう。ここ?それとも自分の部屋かな?しまった、聞いとけば良かったな、と思っていると、小松田さんに「なまえちゃん」と呼ばれる。

「はい?」
「潮江君が迎えに来たよ」
「うお、ナイス」


◇ ◇ ◇


「いってらっしゃーい」と小松田さんに見送られて学園を出る。
私はどこに街があるのか知らないから、私は文次郎君に半歩遅れてついて行く。何となく、文次郎君の背中を見つめる。広い。とても15歳の背中とは思えないほどのガッチリさ。そして貫禄。なんかこれ、お父さんみたいだ。

「ぷぷっ」
「なに笑ってんだ?」
「いや、文次郎君がお父さんみたいだなって」
「はぁ?」
「私服だからよけいそう見えるね」
「お前の方が歳上だろうが」
「文次郎君じつは年齢20歳くらいサバ読んでるんじゃないの?」
「なわけあるか」

そんなたわいもない話をしながら歩くこと数十分、街につく。
さっきの人通りの少ない道を歩いてきた時とは比べものにならないほど人と店で賑わっている。おもわず「すごっ」と口から漏れた。

「ほら、どこでも好きなとこいけ」
「うん」

そう言われてきょろきょろ周りを見渡しながら、今回の目的である着物を探す。


「ね、文次郎君や」
「なんだ?」
「私、この時代の金銭感覚が全くわかんないんだけど、やっぱり着物って高いよね?」
「まあ、それはピンからキリだが……、あの辺の物売りが売ってるものなら古着だが手頃だぞ」

と文次郎君が指を指す先には、ガッチリ構えられた店ではなく、フリーマーケットのように地べたに布をひいて、その上に着物や器を並べ売っている人たちがいた。
何だろう、こういうのって凄くワクワクするんだけど!

「よっしゃいこう!」
「お、おいまっ!」

文次郎君の手を引いて、ぐいぐいと人ごみの中へ入って行く。そして私はひときわたくさんの着物が積まれた所で止まった。すると、人の良さそうなおばちゃんが「あら、着物探してるの?いろいろあるから見てってちょうだいな」と話しかけてくれる。私は「はい!」と返事をして、わさわさと着物の山を探った。

「うーん、自分にどんなのがあうのか……。ねぇ、私にはどんなのが似合うと思う?」

横で私が着物を探すのを見ていた文次郎君にそう聞けば、なぜ俺に聞くというような顔をしたが、「いいから!」と急かせば、「そうだな」と文次郎君も着物の山に手を伸ばし、一枚の着物を取った。

「大人っぽいのよりは、こういうのか」
「うわぁ、可愛い」

文次郎君が取った着物は、濃いめのピンクの生地に、色鮮やかな花がたくさん描かれていて、乙女心をくすぐるデザインだ。

「あとは、こんなんか」
「うおお、可愛い!」

文次郎君がほいほいと山から何着か見繕ってとってくれるが、どれも可愛くて、迷ってしまう。お父さんみたいな顔してるけどセンスいいじゃないか。
それぞれ並べてどれにしようかとうんうんと唸っていると、店のおばちゃんがクスクスと笑った。


「一緒にそうやって着物を選ぶなんてお父さんと仲がいいんだねぇ」
「えっ」
「なっ」

おばちゃんのその言葉に、ビシッと固まる。そして、そっとそばにいる文次郎君をみれば、彼もまた同様に固まっていた。

「ち、父上!」
「いやちがうだろバカタレ!!」

◇ ◇ ◇

「いい買い物だったねー」
「う、うん、まぁ、そうだな」

あの後おばちゃんに「いやーこの人は父ではなくてただの友達なんですー」と説明すれば、おばちゃんは「あらぁ、ごめんなさいね!お詫びに安くしとくわ!」「あと良かったら帯もつけとくわ!」なんていろいろとサービスしてくれて、私は文次郎君が選んでくれた着物を3着とその他もろもろを買ったのであった。

帰りもまたくだらない話をしながら歩いていると、あっという間に忍術学園につく。

「もうついたね」
「そんなに遠くないからな」
「凄く楽しかった!」
「おう」
「明日から文次郎君が選んでくれた着物きるね!」
「お、おう」

少し恥ずかしそうに返事をして頬をかく文次郎君に私が「むふふ」と笑えば、不機嫌そうに「なんだよ」と睨まれたので「何でもない」と言って自分の部屋まで走った。あとからため息をつきながらやってくる文次郎君に少し遠くから「今日は本当にありがとう」と言えば文次郎君はちょっとびっくりした顔をして「まあ、別に対したことでもないからな」と微笑んだ。

「じゃ、また付き合ってね」
「それとこれは話が別だ」