「あっなまえちゃんちょっと…」
「なんですか小松田さアーーーーッ!」




「ほんとあり得ないよ。絶対これシミになるよ!」

小松田さんの馬鹿!と叫びながら水の張った桶の中で墨で真っ黒になった制服をごしごし洗う。
そう、ついさっきの事だ。いつも通り小松田さんと一緒に事務の仕事をしていたのだけど、彼はまたドジをやらかしてくれたのだ。
まあ何時ものようなプリントの山を崩すだとか、何かにつまずいてこけて棚を壊すだとかならまだ良かったのだけど、今日は違った。
何と並々と墨の入った墨入れを、あろう事か私にぶちまけたのだ。

「もう、今日ほど小松田さんを憎むことはない!」

プンプンと怒りながら一度制服を水からあげる。まだすこし墨のかかった部分が黒い。しかし、もうこれ以上は綺麗になる気もしない。
あーあ、とため息をついていると「なにしてんだ?」と上から声をかけられる。

「ああもんじろ君」
「もんじろう、だバカタレ」
「なんか最近私に対して攻撃的になってね?」
「お前も最近本性でてきたな」
「やだなー!文次郎君のこと信用してるんだよー!」
「……、で、何してるんだ?そんな、格好で」
「洗濯してるの。小松田さんに墨ぶっかけられちゃってさあ…。このカッコは服が制服とこれ以外ないから。仕方ないけど今日一日これかな」
「いやちょっとまてお前」

そう驚くように言われて、なに?と聞き返せば、「お前、だってそれ下着だろ!?」と言われた。

「下着ってか寝巻きってか、まあそうだよ?」
「やめとけ。それはやめとけ」
「でも服ないし」

仕方ないじゃんと言ったその時どこからともなくボールのようなものが飛んできて、次の瞬間ボンっと爆発して大量の煙が吹き出した。

「げほっ!なにこれっ…!」
「これは…」

煙を吸って咳き込んでいると、自分以外の咳も聞こえてくる。一瞬文次郎君かと思ってちらりと彼を見たが、流石忍者のたまご。文次郎君は平然とした顔で立っていた。


「学園長先生」
「え、学園長先生…っ?」
「ゲホッゲホッ、ゲホッ!流石潮江文次郎!よくわかったな!」
「いや、こんな事するのは学園長先生だけでしょう」

呆れたようにそういってため息をつく文次郎君に対し、学園長先生は何にも気にする様子もなく、「それではなまえ」と私に向かって話し始める。

「はい」
「今日の放課後。街に着物を買いに行きなさい」
「は、はい?」

そういきなり言われてぽかんとしていると、学園長先生が「着物が無いと不便じゃろう」と言う。まあ、それはそうなんだけど、そのまえに、

「でも私、お金持ってませんし…」
「おおそうじゃったそうじゃった。金の心配はせずともほれ。これを」

学園長先生が懐から巾着を取り出し、私に渡す。それは少し重くて、動かすとジャリジャリと音を立てる。これ、もしかして

「お金ですか?」
「そうじゃ」
「いや、こんなの受け取れないです!」
「これはお前さんの今日までの給料じゃ。遠慮なく受け取りなさい」
「いやいや!ここに住まわせてもらって美味しいご飯をタダで食べさせてもらってるんで給料なんてそんないただけないです!」
「いいから受け取りなさい。年寄りのいう事は聞くものじゃ」
「は、はい」

そう言われてしまっては突っぱねる事ができないので、私はお金の入った巾着を受け取る。

「あ、でも着物ってどこで買えば…」
「そのへんは、潮江文次郎!お主がいろいろ世話をしてやりなさい!」
「わ、私がですか!?」
「さよう。優しくしてやるんじゃぞ」
「は、はあ分かりました」

文次郎君がそう言えば学園長先生はうむと頷いて、「それでは!!」とまた懐に手を突っ込んでボールを、いや煙玉というのだろうか。とりあえずそれを取り出して地面に投げつけ、また煙をボフンとたてて去っていった。でももろに帰って行くとこ見えましたが。

「文次郎君、優しく教えてね」
「気色悪い言い方をするなバカタレ」
「え、そんなに気色悪い?」
「で、町に行くのはいいが…お前着物がないんだろう?町にその格好で行くつもりか?」
「あっ…」


忘れてた