朝、自然と目が覚めて、一番最初に自分の部屋とは違う天井を見てああ今日もここで一日が始まるんだ、と実感して体を起こす。
戸を開けて、朝の空気をめいいっぱい吸い込んで…

「おはよう」
「おはよーってうわああああ!!!」

いきなり真後ろから声をかけられ、私は跳ね上がる。
振り向けばそこには

「さ、さっささ三郎君!?」
「そこまで驚くか?」
「驚くよ!いつの間に後ろに!?」

「あー、びっくりした!」とバクバクとうるさい胸に手をあてて、落ち着かせる。どうしたのこんな朝っぱらから、と聞けば、三郎君は「昨日、言ったでしょ」とニヤリと笑った。

まあ放っておけば、気が済むかな。と思い、気にせず仕事を始めたのは結構前だ。だけど、三郎君は飽きる事なく事務室のすみっこでずーっと私を見ていた。


「ねぇ三郎君や」
「ん?」
「今日は一日中私にくっついてるつもりなんです?」
「まあ、そうかな」

「まだボロが出てないし」なんて言う三郎君。まあ、邪魔じゃ無いんだけどさ、なんていうか

「圧迫感が…」
「ならさっさと吐いちゃえばいいじゃないか」
「吐く物がないし」
「ふぅん」
「ていうかさ!授業は?行かなくていいの?」
「今日は五年生は授業が無いんだよ」

ふふんと得意げにそういう三郎君に「あっ、そーですか」と返事して、プリントを刷る作業を続ける。すると、小松田君がやってきて「もうお昼ですよぉ」と間の抜けた声で言った。


「お昼ごはん食べてきたらどうですかぁ?」
「うん。小松田君は?」
「僕はもう食べたよ〜」
「はやっ」

なんだよ小松田君、そんな一人で食べに行くことないじゃないですか〜と言えば、隅で座っていた三郎君が「いや、もう昼食の時間になってだいぶたってる」と言う。あ、そうなのね。

「んじゃあ行って来るよ」
「じゃ私も」
「どこまでも着いてくるよね」
「ボロが出るまで」
「はっはっは」

特に三郎君と話すわけでもなく、食堂へと向かう。
あー、なんかずっと座ってたから、散歩みたいな感じでいいな〜なんて思っていたら「おい」と三郎君に声をかけられた。

「な…どわっ!」
「そこ落とし穴、って遅かったか」
「いったた…」

ああ、またはまってしまった。前に落ちた時以来、足元には警戒するようにしてたけど、完全に気が緩んですっかり忘れてた。
まあ、最初に落ちた落とし穴よりはだいぶ浅いから、良かったと穴から這い出る。
服についた土をパンパンとはらい落としていると、三郎君が「それもフリか?」とたずねてきた。

「落とし穴にも気付かないっていう」
「はは、ちがうよ」
「どう…」
「いこ、お腹すいちゃった」


何か言い足そうな三郎君の言葉をさえぎり、にっこり笑って食堂へと促す。
そして、食堂について、大きな声でBランチを頼んで(三郎くんはAランチ)、ちょうど一緒に居合わせた五年生たちと一緒に昼食をとった。
雷蔵君に「三郎君が朝からずーっとついて回ってうざいからどうにかしてくれないかな〜」と笑いながら言えば雷蔵くんは「まったく、授業サボって何してたかと思えば」と苦笑いして、昼食を食べ終わった五年生たちは、三郎君をつれて帰った。やっぱサボりか。

五年生たちを見送って、生徒も少なくなった食堂で一人ずずっとお茶をすする。
大丈夫、笑えてんじゃん。私。


「さぁ、午後も仕事がんばろう」