「文次郎君じゃないの?」

まさか、と思い言ってみたが、文次郎君は何も言わない。
なんか、ますます違和感。
そういえば、さっき五年生と「三郎君は変装名人」と言う話をしていたな。あれ、まさか

「さ、三郎君だったり、して…?」
「……」
「なわけないか!」

ははは!だよねー!そんなことする意味も無いしねー!と笑えば、文次郎君もにこりと笑った。そして「そうだよ」と言う。
あれ、声変わった?一瞬で声変わり?

「そう、あたり。」
「ん?」
「私は潮江文次郎じゃなくて鉢屋三郎」
「あ、そっか三郎君かー!ってえええ!?」

まじかよ!と遅れてツッコめば、文次郎君は顔に手をやり、ばりっとめくった。何って、顔を。
そして出てきたのは雷蔵君と同じ顔。

「は、わ」
「私が何で潮江先輩に化けてたか教えてあげようか」
「え?あ、はい」
「貴女の正体を調べるため」
「え?あ、っい!」

容量の小さい脳みそで、今この状況を把握しようと思考回路をフルで巡らせていたら、全てを把握する前にどんっと文次郎君、いや三郎君に壁に叩きつけられた。ついでにガン!と頭も打つ。

「ったぁ…」
「そうやって、受身もとれないフリか?」
「は、はぁ?」
「六年生にはどうやって近づいた?色でも使ったか?」
「い、いろ?いや、あのさ…」

「ちょっと意味わかんないんだけど」と言っても三郎君は鋭い瞳でじっと見つめるのみで、私を壁に押し付けたまま、離してくれる気配もない。

「あ、あのさ、三郎君は、私が、その、くの一だとか間者じゃないかって疑ってるの?」

そう恐る恐る聞けば「ああ、そうだ」と三郎君は言う。
そういえば、前にも仙蔵君にこんな風に問い詰められたっけ、と思い出した。はあ、やっぱり私は疑われる存在なのか。とまた悲しくなったが、落ち込んでる場合ではない。私は潔白で、怪しいものではないと説明しなければ。

「あのっ…」

「誰がどう言おうと、私はくノ一でも間者でもないただの一般人です」そう三郎君に言おうと口を開いたその時、「なまえちゃーん」と名前を呼ばれた。この声は多分勘ちゃん。
ふと声の方を振り向けば、勘ちゃんだけじゃなく、さっきの4人全員がギョッとした顔をして立っていた。

「さ、三郎!?」
「な、何やってんだよ!?」
「お、おま!なんで六年生のカッコ!?」
「なまえちゃん大丈夫!?」

4人が焦って私から三郎君を引き剥がす。「なにしてんだよ!」と八ちゃんに怒られる三郎君は不満そうに「しかし思わないか」と言った。

「あんた、裏裏山で怪我してたところを潮江先輩に助けてもらったんだろ?」
「う、うん」
「あんなとこ、一般人が入るわけない。万が一あったとしても、自分の住んでいた所に戻らずにここで住み込んで働くなんて、怪しいじゃないか」

三郎君のおっしゃる事はごもっともで、他の4人も「まぁ…」と口ごもる。

「でも違うんだよ!本当に!」
「なら、違うと言う証拠を出してくれよ」
「そ、そういうの悪魔の証明って言うんだよ!」
「悪魔の証明?」
「そう!私は間者でもくノ一でもないんだから、それを証明しろって言われても困るよ!そんなに疑うなら三郎君が私が間者だっていう証拠を見つければいいんだよ!」
「ほぉ、それは面白いじゃないか。じゃあそうさせてもらおうか」
「お、おうよ!」
「必ず証明してやろうじゃないか」
「おうよ!!」

そんなこんなで、三郎君とそういう勝負(?)をする事になったんだけども、私にはいつ平穏がくるのでしょうか?ていうか、いつ帰れるのでしょうか。


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三郎は間者かどうか疑ってはいるけどそれよりも楽しんでる