「なまえちゃん、そこの…あっ!」
「こ、小松田さん!!」

ばさあ!と小松田さんが何もないところでつまづいてプリントをぶちまける。これ、2回目ですけど。ちなみに、こけてプリントぶちまけ以外には、墨をこぼす、プリントを破く、棚を倒すなどをしてくれた。
小松田君と事務の仕事をするようになって3日目。
一番最初に吉野先生の言ったこと、よーく分かりました!
吉野先生確かに小松田さんはドジでへっぽこです…!

それでもわざとじゃなくて、へまをするたび「ごめんねぇ」と申し訳なさそうに言う小松田さんは何だか憎めない。

「いいですよ。おんなじ事務員じゃないですか」
「なまえちゃん…!」

散らばったプリントを拾って、きちんとまとめる。そしてそれを小松田さんに渡せば、「ありがとぉ」と笑った。

「じゃあ、僕はこのプリントを各学年に配るのとトイレの落とし紙を保険委員にわたしてきますねぇ」
「はい。でもそのまえに、落とし紙はどっちですか?」
「んっとぉ、こっちー!」
「……そっちは各学年に配るプリントです」
「あれぇ」


そんなこんなで「ダメだ、小松田…」と思った私は、各学年へのプリントは私が配ることにして、小松田さんには落とし紙だけを持たせて事務室から送り出した。

まずは一年生い組、そしてろ組のクラスの子にプリントを渡し、最後は組の教室の戸をノックすると、土井先生が出てきた。

「なまえさん、どうしたんですか?」
「これ、事務室からです」
「ああ、ありがとう」

土井先生にプリントを渡して、それでは、と次のクラスに行こうとすれば、「あー!新しい事務のお姉さんだー!」と教室から聞こえてきた。すると、わらわらと教室の中からこちらへ男の子たちが集まってくる。

「わっ!こらお前たち!」
「お姉さんこんにちわー!」
「「「「変わなじゃdつぃあんzはぎあmで好きぢshylあjぢ!!??」」」」
「えっ、えっとー」

わーっと一気に質問攻めにしてくるは組の良い子達にうろたえていると、土井先生が「こらこら」と良い子達をなだめる。

「なまえさんが困ってるじゃないか!そういうのは一人づつ言いなさい!」
「はーい!」
「猪名寺乱太郎です!変わった着物ですね!」
「あ、そうみたいだね!でもこれ動きやすいよ!」
「山村喜三太です!なめくじは好きですかぁ?」
「な、なめくじはそうだな…見るだけなら大丈夫かな!」
「ほぇ〜触っても可愛いですよぉ?」
「福富しんべぇです!おだんご好きですかー?」
「うん!好きだよ!」

一人一人の自己紹介を聞いて、質問に答えて行く。そして最後の一人、黒木庄左ヱ門君が「お姉さんは忍者と関係ないのにどうして忍術学園にきたんですか?」と聞いた。
乱太郎君が「庄ちゃん冷静ね〜」と笑う。

「うーん、話すと長くなるんだけど、裏裏山で山賊に襲われて怪我したところを、六年生の文次郎君に助けてもらって、それでかくかくしかじかでここで働くことになったんだよ」
「潮江文次郎先輩がですか!」
「団蔵君知り合い?」
「はい、僕の入っている会計委員会の委員長なんです」
「へぇー!文次郎君って委員長なんだ!いい先輩だよね〜」
「ま、まぁ…」
「え、よくないの?」
「あははは!潮江先輩にはこの事、絶対に言わないでくださいね!」
「え、わ、わかった!」

少しの間だけど、楽しくおしゃべりして、それから、また今度一緒にあそぼうという約束もし、は組の教室をあとにした。
早くプリントを配り終わらなきゃな、と思うけど、2年生と3年生にも捕まっていろいろ質問に答えていたら、3年生の所を出た頃には事務室を出てだいぶ立っていた。
早くしなきゃ、と急いで四年生の教室へ行くが、どのクラスも空っぽで、じゃあ五年生を先にと五年生の教室をのぞけばまた空っぽで、まさか六年生も?と思いながら、六年生の教室を除けば、やっぱり空っぽだった。

「えー、みんなどこ行っちゃったの?」

長屋のほうに行ってみるか、と校舎を後にする。
たしか、四年生の長屋はこっちのほうだったかな〜と思いながら歩いていると、何かをけった。ん?と思って足元を見れば、木の枝が散らばっている。
なんだ、木の枝か、と思ってまた一歩踏み出せば、ふっと浮遊感が襲った。


「ぎゃあっ!」


すぐにどすんと地面に腰を打ち付ける。
どうやら、何か穴に落ちたらしい。上からひらひらと持っていたプリントが舞い落ちて来た。

「いたたた…、しまったこれじゃあ小松田さんの事へっぽこなんて言えないよ…」

プリントを拾い、立ち上がって穴から出ようとするが、穴は自分の身長より10センチは深い。幸い、足はなんともないが、自力でこの穴からでるのは…

「いや、ここで諦めたら試合終了だ…!」

とりあえず、プリントを穴から出して、さあ次は自分が出る番だとジャンプして穴の縁につかまる。が、すぐにずるりと落ちてしまう。くそっ!ともう一度飛びつき、やっとのことで穴から顔を出し、よっしゃ!と思ったその瞬間「おー!」と言う声が頭上から聞こえた。


「へっ?あっ!ぎゃあっ!!」
「あららぁ」

せっかくもう少しというところで、いきなり声をかけられたことにびっくりしてまた盛大に落る。「もう!なんなんだよぉ!」と半分べそをかきながら上に向かって叫べば、ひょっこり顔が出てくる。灰色のふわふわの髪の毛に、紫の忍装束。四年生だ。

「新しい事務の人じゃないですかぁ」
「そうだけどさ!もお!出れると思ったら!落ちちゃったじゃん!!」
「僕のせいですかぁ?」
「そうだよ!」

「もうちょっとだったのに」とべそべそしながら、立ち上がり穴の縁をつかむ。もう一度自力で出ようとしたそのとき、「ん」と手をさし出される。

「ん?」
「手伝いますよ」
「つかまっていいの?」
「出たくないんですか?」
「いやいや」

「出たいにきまってるよ!」とその手をつかむ。
すると、ふっと体が浮いて、あっというまに穴から出ていた。
おもわず、何がなんだか分からなくて目をぱちくりさせていると、男の子が「大丈夫ですかぁ?」と間の抜けたトーンで聞いてくるので、私はおもわず「あ、はい、大丈夫っす」と返事した。
何のキャラだよ。