食堂を無事脱出し、土井先生の横について歩く。さっきまでの騒がしさが嘘のように廊下は静かでのどかだ。

「ところで土井先生、何の用でしょう?」
「ああ、なまえさんの足が治ったようなので、そろそろ事務員の仕事の話をしようかと」
「あ、私もちょうどその事について聞こうと思ってたんです!」
「それなら丁度いい」


そんな話をしながら、着いたのは土井先生の部屋ではなく、学園長先生の庵だった。
前に来た時、学園長先生が出てくる際に投げられた煙玉でえらいことになったので、またそんな事があったらと少し身構えながら中に入る。
しかし、学園長先生はすでに座っていて、そしてその横にはユニークな顔の土井先生と同じ忍装束を来た男性が座っていた。

「おお、よくきた。座りなさい」
「は、はい!」

学園長先生の前に、私と土井先生が並んで座る。
そして、学園長先生が隣に座っている男性を「吉野先生じゃ」と紹介してくれ、その吉野先生がぺこりと会釈をしたので、私も「みょうじなまえです」と会釈し返した。

「みょうじにはここで事務員として働いてもらう。そして吉野先生は事務の担当をしておるので、これからは吉野先生にいろいろと聞けばいい」
「よろしくお願いしますねみょうじさん」
「はい!あの、じゃあさっそくお仕事を…」
「まあ待つのじゃ。それよりも先にすることがある!」

にこりと笑ってそういう学園長先生に、私はわけが分からず「は、はぁ?」と返事する。すると、学園長先生が「松千代先生!」と天井に向かって声をかけた。
え、天井?何で天井に?不思議に思い上を見上げれば天井板がちょっとずれてその隙間から顔が見える。

「松千代先生、集会を開くので生徒をグラウンドに集めてくれんかの」
「は、はい〜了解しました、あぁ恥ずかしい…」

すぐにその人は去って行き、学園長先生や吉野先生、土井先生がよいしょと立ち上がる。私だけ、ポカンとわけが分からずにいた。

「さあ、なまえさんグラウンドに行きましょう」
「土井先生、その、何をするんですか?」
「なまえさんの紹介をするんですよ。何てったって新しい事務員さんですからね」

先生達のあとについてグラウンドに出ればすでに生徒達はきっちりと整列していた。
学園長先生が台に登り、ごほんと咳払いをして話始める。

「えー、今日は新しい事務員さんの紹介をする!今日から事務員として働いてくれるなまえじゃ!なまえ、自己紹介を」
「はい!初めましてなまえです!事務員として働かせていただきます!拙い事もあるかと思いますがよろしくお願いします!」

自分に集まる視線に少し緊張しながら拙い自己紹介をしてペコリと頭をさげる。そして学園長先生が「なお、なまえは忍者とは程遠い一般人なので、無茶な事はしないこと!」と言って本当に私の紹介だけの短い集会は終わった。

集会が終わったあと、学園長先生に「では仕事を頑張るんじゃぞ」と言われたので、私はさっそく吉野先生に仕事をもらうことにした。

「吉野先生、私はどんな仕事をすればいいんでしょうか」
「そうですね、大体プリントの制作と配布なんですが、まずは事務室に案内しましょう」
「はい!」

吉野先生について、事務室に入れば、男の子が一人居て、何かを書いていた。ぱっと目が合うと、男の子が「あ〜」と声を上げる。

「吉野先生、その子が言ってた新しい事務員さんですか〜?」
「そうですよ。みょうじなまえさんです」
「みょうじなまえです。これからよろしくお願いします!」
「なまえちゃんか〜!僕は小松田秀作。事務のことなら何でも聞いてね〜!」
「はい!」

「これから一緒にお仕事がんばろうね」とふにゃふにゃした人懐っこい笑顔でそう言ってくれる彼小松田さんに嬉しくて顔がほころぶ。何だか、仕事が楽しくなりそう。そう思った時、ポンと吉野先生が私の肩を叩いた。

「なまえさん。私はなまえさんに期待しています」
「え?そんな、期待なんて…」
「先に言っておきますが、小松田君はドジで、へっぽこ事務員です」
「え、ええ?」
「よろしくお願いしますよ」

そういう吉野先生に私は大げさだなあ、と思ったが、私はすぐに吉野先生のその言葉を思い知ることになるのだ。