「で、あっちに見えるのが職員室で、ここが食堂だ」 「ほぉ、文次郎君たちはいつもここで食べてるんだね」 「ああ」 「そういえば、今お昼の時間だよね」 「そうだが」 「私、まだお昼食べてなくて、おなか減っちゃった」 ぐるる〜と鳴るおなかを押さえてあはは〜、と笑う。 すると文次郎君がはぁ、と少しあきれたようにため息をついて「じゃあ食べてくか」と言った。 「なんか、ごめんね」 「いや、いい。俺もまだだし、みょうじもここを使うんだから食堂のおばちゃんに挨拶しておくといい」 「うん、ありがとう!じゃあ早く行こう!もうおなかペコペコ!あいたっ!」 嬉しくて思わず走りだすと、ズキンと足に痛みが走る。 「やっちゃったー!」と叫ぶと、文次郎君がまた「はぁ」とため息をついて「走るのはまだ無理だと言ったのはお前だろうが」と呟いた。 そのごもっともなお言葉に「いやぁそうだったね」と頭をかいて、それからゆっくり歩いて食堂に入った。 「こんにちは」 「こんにちは〜」 「はぁい、あら、潮江君とあなたは…」 「えっと、みょうじなまえです!近々ここで働かせていただきます!」 「そう!あなたがなまえちゃん!学園長先生があたらしい事務の人が入るって言ってたけど、こんなにかわいい子だったのねぇ」 「えへへ、いやぁそれほどでも」 「また食堂のお手伝い頼むと思うけど、よろしくねぇ」 「はい!こちらこそ」 食堂のおばちゃんはとっても優しそうなおばちゃんで、なんだか私はほおっとした。 和気藹々と挨拶もすませ、お昼を頼む。 お昼は今日はハンバーグ定食らしく、お盆の上のお皿にはいつも食べていたものとおんなじような、いや、それ以上においしそうなハンバーグが乗っている。(もうこの時代に何であるのか、なんて気にしないことにした) 「いただきます!」 「いただきます」 「んーおいしいいぃい!」 「本当に幸せそうに食うな」 「うん、おいしいもの食べてるときって幸せだよね!!」 そういうと、文次郎君が「まぁ、な」とフッ笑う。 そういえば、今まで文次郎君、私と一緒にいて笑ったことなかった気がする。どっちかって言うと、ずっと「はぁ」ってため息ついて呆れられてたし。 「ん、なんだ?」 「文次郎君て、そういう風に笑うんだねぇ」 「え?あ?」 「ううん、何でもない。それよりさ着物の色が紫とか、青の子がいるけど、なんか分かれてるの?」 「あ、ああ、そうだ。俺や仙蔵の着ている深緑の忍装束が六年、群青が五年、紫が四年、萌黄が三年、青が二年、井桁模様の入った水色が一年だ」 「へえ、そうなんだ。じゃあ文次郎君が一番上かー」 「そうだな」 「文次郎君は良い先輩してそうだよね」 「なんでだ?」 「何となく!」 そんな話しを2人でして、食べ終わった後の食器を返し、最後にまたおばちゃんに挨拶して食堂を出た。 「後はここから医務室くらいだな」 「最終目的地だね。お、」 「何だ?」 「前からくる人達、あれは五年生?」 「ああ、そうだな」 おー、あれが五年生かぁ、と前から来る4人、黒いふわふわの髪の毛の少年と灰色のぼさっとした髪の毛の少年、それから、全くと言って顔が同じ茶髪の2人の少年(双子なんだろうか)をまじまじと眺める。すると、黒い髪の毛の少年とバッチリ目が会った。うわぁまつげ長い。 「あの、潮江先輩、そちらの方は?」 黒い髪の毛の少年が文次郎君に聞く。文次郎君はちらりと私を見て、そして「新しい事務員だ」と答えた。 「新しい事務員が入ったなんて話し聞いてませんが」 それは棘のある言い方ではなく、本当に不思議そうな感じだったが、何か探るような少年達の視線に思わずたじろぐ。 すごく、怪しまれてるきがする。 「あの、まだ、事務員じゃないんです。その、今怪我してて、治ったらって話で、その…」 「怪しいものじゃないんです」とは言えなかった。 なぜなら私はガッツリ怪しいやつだからだ。文次郎君や伊作君、土井先生や学園長先生にも本当の事は話していない。何で学園長先輩があっさり私を雇ってくれたのか謎だけど、こんなヤツ、怪しむのが普通なのだ。もしかしたら文次郎君や他の六年生達もそう思ってるかもしれない。 何だかいたたまれなくなって、俯きかけるが、そんな事しても仕方ない。 「あの…」 「すみません、なんか怪しいヤツですよねぇ〜私」 とりあえず、私は笑う事にした。ちゃんと笑えてるか、わかんないけど、ヘラヘラと笑う。というか、このまま笑うのを止めたら、なんだか泣いちゃいそうだ。 「でも、事務員になったら仲良くして欲しいなぁ〜なんて!」 「はぁ、」 「あ、私みょうじなまえって言うんです!なまえって呼んでください!敬語とか!そんなの全然いいんで!よろしくお願いします!」 「よ、よろしく…」 私の空元気に少年達が少々あっけに取られたようにうなづく。 それから文次郎君が「また学園長先生から紹介があるだろう」と話を切り上げた。 五年生達と別れて医務室までの道のりは、2人ともずっと無言だった。 |