「だいぶ治ってきたね」
「うん、あんまり痛くないし」

ここに来てもう5日
挫いて真っ赤に腫れた足は、もう元どおりになっていて、まだ走れはしないものの、暴れなければ大丈夫なほどになっていた。

「良かったね 、もうすぐ完治だよ」
「うん!お世話になってるから、早く働かなきゃね!」
「でも、無理はダメだよ!ところでなまえちゃん、お風呂入りたくない?」
「え、お風呂?入れるの?」
「うん、もう何日も入ってないでしょ?」

そう伊作君に言われて、ふと自分の髪の毛を触れば、もうくしゃくしゃだ。肌もざらついている。
まあここ最近は、手ぬぐいで身体を拭くだけだったし。

「うん、入りたい!」
「じゃあ行こうか。案内するよ」
「うん!」

いやあ、久しぶりのお風呂嬉しいなあ!と伊作君と廊下を歩いてお風呂に連れてきてもらう。

「ここは忍たま用の風呂なんだ。まだ昼間だし、こんな時間に入る人なんてそうそういないけど、もしもの事があると行けないから僕ここで待ってるね」
「うん、ありがとう!」

それから、伊作君は私が今着ている制服も、すっかり汚れてよれよれだからと着替えまで用意してくれた。

脱衣所で服を脱いで、中に入れば、シャワーや鏡はないけれど、まるで旅館のような浴場に少しテンションがあがる。

まずは汚れを流そうと、浴槽から桶でお湯を汲んで、頭からかぶった。それだけでとてもさっぱりする。そして、ふと周りを見渡せば固形の石鹸とボトルが二つ置いてあるのに気がついた。

ボトルの中身を手にとってみればそれはシャンプーのようなもので、恐る恐る髪の毛につけてみればみるみる泡立った。

「本当にシャンプーだ!」

うわあ!何で!?ここって幕末じゃないの!?幕末ってシャンプーあったの!?と驚きながらも、喜びの方が勝ってそんな事はどうでも良くなった。
まずはこの久しぶりのバスタイムを楽しむべきだ。
シャンプーを流し、もう一つのボトルの中を出してみればそれはリンスで、また私は歓喜した。


頭も身体のすっかりサッパリ綺麗になって、次はいそいそと浴槽に入る。
少し熱めのお湯が気持ちいい。

「はぁ、幸せ〜」


壁に頭を預けて目をつむる。
そして、今の自分がいる場所の事を少し考えてみた。


この忍術学園に来た当初は、私はただ過去にタイムスリップしただけだと思ったのだけど、どうもそうではないみたいだ。
医務室に仙蔵君達が来た時、留三郎君が「俺は伊作とは同じクラスだぜ」と普通に横文字を使ったし
今さっき使ったシャンプーやリンスも、こんな時代(予想では幕末だけど)にはないはずだ。

つまり、ここはただの過去ではなく、何かもっと違うとこなのかもしれない。

「パラレルワールドみたいな…」

ぼそりと声に出してみるが、どうにも実感がわかない。わかないけども、ここは確かに私のもといた所ではない。
なんだよ、パラレルワールドって。

顔を半分お湯に沈めてぶくぶくと息を吐く。

「伊作君も待ってるし、もう出よ」

お風呂から上がって、なれない着物を何とかそっれっぽく着る。
それから着ていた制服を畳んで持って脱衣所を後にする。

「ごめんね、伊作君、待たせちゃって…、ってあれ」

脱衣所を出ると、伊作君はおらず、代わりになぜか文次郎君がいた。

「出たか」
「文次郎君?あのさ、伊作君いなかった?」
「伊作は少し用事ができたんで、俺が代わりにお前を待っていた」
「そっか、ごめんね。待たせちゃって」
「いや、いい。ところで少し歩けるか?」
「うん、もう全然大丈夫だよ」
「そうか」

「じゃあちょとついて来い」と文次郎君が歩き出す。私は「うん」と返事して彼の後ろをついて行った。

しばらく歩くと、文次郎君がある部屋の前で止まる。
それから戸をあけて、どうぞと私を入れてくれた。

「ここは?」
「ここがみょうじの部屋だ」
「え?ここ?私の?」
「ああ、いつ前でも医務室じゃなんだからな。学園長先生がここを使えと」
「へぇえぇ、それはありがたいなぁ、またお礼を言いに行かないと」
「隣は俺と仙蔵の部屋だから、何かあったらこれば良い」
「うん、わかった!」

「じゃあ、俺はこれで」とすぐに部屋を出て行こうとする文次郎君に「ありがと〜」お礼を言ったその瞬間「あ」とあることに気がついた。

「私そういえば医務室に荷物置きっぱなしだ!」
「あぁ、あの変な」
「変、変かな?いや、でもとりあえずおきっぱなしだから取りに行かないと」
「俺が取ってこようか?」
「え、いいよいいよ!自分の事だし。あっ、でもここから医務室ってどう行けばいいのかわかんないや。というか、私この建物のこと医務室の中くらいしか知らないような…」
「…案内、してやろうか」
「ほんと!?」
「ああ」

ということで、文次郎君に学園内を案内してもらうことになりました!