医務室にいる得体の知れない女、みょうじなまえはあまりにも間の抜けた女だった。 そんなみょうじを調べ尽くそうと、私を含めた4人はみょうじを囲むように私、小平太、留三郎、長次と座り、じっとみょうじを見つめる。 とりあえず、私が「どういう経緯でこの学園に?」と尋ねた。 「あー、それはですね、その、森でさまよって怪我してたところを潮江文次郎君に助けて頂いて、ここに連れてきて貰ったんですけど…」 「文次郎が?」 「もしかしてお知り合いですか?」 「ああここにいるのはみんなそうだ」 「へぇ、じゃあ善法寺伊作君も知ってますか?」 にこにこと笑いながらそう聞くみょうじに皆が頷き、留三郎が「俺は伊作とは同じクラスだぜ」と言う。 すると「へぇ、クラス…クラス?」とみょうじが不思議そうにする。「どうかしたか?」と聞けば「いや、クラス、とかあるんですね」と言った。 「私は文次郎と同じだ」 「私はここにいる長次と一緒だぞー!まあ、私達六年生は人数も少ないし、だいたい一緒にいるけどなー!」 「…もそ」 「そうなんだ」 そこまで話したところでみょうじが「そういえば」とつぶやく。 「皆の名前、教えてくれませんか?」 「ああ、そう言えばまだだったな私は立花仙蔵だ」 「俺は食満留三郎」 「私は七松小平太だ!よろしくどんどん!」 「……中在家、長次」 「仙蔵君に留三郎君に小平太君に長次君、か!私は」 「みょうじなまえだろ!」 「あれ、私仙蔵君にしか言わなかった気がするんだけど」 「私もさっき聞いた!天井裏で!」 「そ、そっか!じゃあ良ければなまえって呼んで」 少しはにかみながらそう言うみょうじ。その少し間の抜けた、緊張感の無い笑顔は私たちからすっかりみょうじを疑っていた心を取っ払った。 「ああ、そうさせてもらおう。なまえ」 「なまえか!よろしく!」 「よろしくなー!なまえ!」 「…よろしく、なまえ……」 「う、うん!」 そうして、しばらく和やかに5人で話をしていると、隣にいる小平太がなにやらモゾモゾしているのに気がついた。 「どうした小平太?」 「その、なまえはくノ一でも何でもないただの女だろう?」 「まあ、そうらしいが」 「私、くノ一以外の女をこんなにまじまじと見たのは初めてだ!」 「はぁ」 そう言って、小平太がなまえに「ちょっと触っていいか!?」と聞く。すると、なまえはちょっと考えて、それから「いいよ」と言う。 小平太が目をキラキラさせてまずなまえの手をとった。 「わ、すげえ、スベスベだ!」 「そ、そうかな?」 「私、こんなに綺麗な手、初めて見た!」 「なに?俺にも見せてくれ。おお、確かに。」 小平太に続き、留三郎も加わり、長次までもがそっとなまえの手を見つめる。私もなんだか興味がわいて、割り込んで見た。 確かに、あまり日にも焼けておらず、手のひらや指は柔らかく豆一つ無かった。 これは日頃からクナイや刀を使う事がないという事を物語る。 「うおお、腕も細い!」 「小平太君、くすぐったいよ」 「ああ、すまない。しかし、なまえはなんだか新鮮でとても面白い!」 小平太は一度なまえの手や腕を触るのをやめ、ググっと己を顔をなまえの顔に近づけた。そしてスッと手を頬に添える。 「こ、小平太くーん?」 「なまえ、やわらかいなぁ!」 「え?うん?その……」 「ぎゃあ!!」という叫び声と、ゴツン!という衝撃音がしたのは同時だった。 なんと、小平太がなまえに抱きついて押し倒したのだ。 小平太からすれば、いつものスキンシップのつもりなのだろうが、なまえは完全に目を回している。 「おい!小平太!!」 「お前幾ら何でも女の子にそれは!」 「…やめろ……」 「なんで!なまえの身体、凄く柔らかくて温かくて気持ちいいぞ!」 「離れたくない!」という小平太に「いい加減にしないか!」と言おうとしたその時。スパンと医務室の障子が開く音がした。 「お前ら、何してんだ?」 「文次郎…」 「小平太、お前…」 「おー!文次郎!!なまえちゃん、かわいいなあ!」 「……ッ!この!バカタレェェエェ!!」 文次郎が医務室へ戻って来てからはもうめちゃくちゃだった。 私が小平太をなまえから引き離している間に、なぜか文次郎と留三郎がケンカをしだし、長次までがキレて笑い出す。 私が頭を抑えてどうしたものかと思っていると、伊作が入ってきて、「医務室でいったい何ししてるんだ!」と怒って私たちを医務室から叩き出してしまった。 「追い出されてしまったなぁ、残念だ」 「文次郎!お前のせいだぞ!」 「んだと!留三郎!!」 「いい加減にしろお前達。ケンカなんかしているバヤイではなかろう」 またケンカを始めそうな二人にそう言えば「まあ、そうだな」としぶしぶ掴みかかっていた手を離す。 「それよりなぜ仙蔵達がみょうじの所にいたんだ?」 「医務室に得体の知れない女がいる、しかもその女にお前が絡んでいる。という噂を聞いたからな。確かめにきたんだ」 「なんだ、それ…」 「で、文次郎はなまえについてどう思う?」 「あ?何が?」 「間者なのか、本当にただの怪我人なのか…という事だ」 じっと文次郎の目を見つめる。 少しの間ののち、文次郎が口を開いた。 「俺はまだあいつを完全には信用してない」 「私にはただの貧弱な小娘に見えるが」 「確かに。だが、あいつは何か隠してる。それが何か分からんが…」 「ふむ、それは私も思った」 なまえがこの忍術学園に来るまでの経緯や、話している時、所々に少しの戸惑いがあった。 あれは何かを隠しているのだろう。 「まあ、疑うに越したことはないという事か」 「俺はそう思っている」 「そうか…」 私は医務室の方を見て、ふぅ、と息を吐いた。 |