「なあ、お前達、なんだか最近文次郎の様子がおかしいと思わないか」

昼食の時、いい具合に伊作と文次郎以外の六年のメンバーが集まったので、最近気になっていた事を口に出した。

「私は別に何とも思わないぞ!」
「そうか?でも、最近授業以外でヤツを見かけないな」
「もそ…、私も…」

小平太は何も気づいていないようだが、留三郎と長次は少し思うところがあるらしい。

「なにやら最近医務室に伊作と一緒に入り浸っているようなんだ」
「文次郎怪我したのか!?」
「伊作はまだしも、ちょっと怪我したくらいで文次郎が医務室に行くか?」
「…それは、ない…」
「じゃあ大怪我なのか!?」
「小平太、少し黙れ」

違う方にすぐ飛んでゆく小平太を黙らせ、私は「それから少し妙な噂を聞いたんだがな」と続ける。

「妙な噂って、なんだよ」
「うむ、なにやら、妙な女性が今医務室に居るらしい。そしてその女性が近々忍術学園の事務員になるとか、という噂を聞いた」
「なんだ、それ。その女と文次郎が何か関係あるってのか?仙蔵」
「まあ、一概にとは言えんが…」
「なあなあ!」
「なんだ小平太、うるさいぞ」
「私、この前文次郎が女を抱えて医務室に行くのを見たぞ!」
「またそんなしょうもない事を…え?」
「そうだぞ小平太!関係な…え?」
「だから、私、この前文次郎が女を抱えて医務室に行くのを見たぞ!」
「これは……関係、ある」


そのあと、私達は猛スピードで残っていた昼食を流し込み、医務室へ忍び込む計画を立てた。

放課後、4人で医務室の天井裏に忍び込んだ。天井板をそっと外し、部屋の中を見下ろす。
そこには伊作も文次郎も居らず、変な服を着た、女性というにはまだ少し幼い女だけがいた。

「おい、小平太。あの女か?」
「前見たときは、顔がよくわからなかったが…たぶんコイツだ」
「どうする?今はあの女だけみたいだぜ」
「…もそ」

今があの女を調べるには絶好のチャンスだ。ので「私が先に行こう」と言ってそっと天井裏から女の背後へ降り立った。
気配を消してじりじりと女に近づくが、女は私に気づく気配などなく、ぼーっと医務室の入口を見ている。

「なんだ?気づいていないフリでもしているのか?」
そう訝しげに思い、懐からクナイを取り出し、女の首元に近づける。ピタッとクナイが女の首についたその時、「ひゃあ!」という間抜けな声が医務室に響き渡った。

「わっ、なん、え?だれ!?」
「動くな」
「あ、はい」

大人しくじっとする女に、とりあえずは「お前は何者だ」と聞く。
すると、女はためらう事なく「みょうじなまえです」と答えた。

「間者なのか?」
「かん、じゃ?かんじゃって患者?」
「ちがう!間者だ!間者!!」
「えーと、隙間の間に役者の者?」
「そうだ」
「その、すみませんが間者ってどーいう意味ですか」

おずおずとそう聞く女に思わず私はため息をついてガックリとうなだれる。
それに気づいたのか、女が「えへへ、すみません」と間の抜けた謝罪をした。

もういい、と女の首に当てていたクナイを懐にしまう。
こんな間の抜けて体も軟弱そうな小娘が間者やくノ一には到底見えない。
もし襲ってきたとしても簡単にねじ伏せられるだろう。

そう考えていると、上から「仙蔵〜」という声が聞こえた。
そうだ、すっかり忘れていたが、上には3人を待機させていたのだった。「降りて来い」と言えばストっと天井裏から小平太、留三郎、長次が降りてくる。
女はびっくりした様子で降りてきた3人と天井を交互に何度も見た。


「な、なん、えぇー…?」