それから、少しすると、土井先生がやってきた。
どうも、この忍術学園の学園長が私の話を聞きたいらしく、今からその学園長の元へ行かないといけないという事らしい。

「大丈夫ですか?」
「はい!もちろん!」

寝起きのままで少し乱れてるであろう髪の毛を手ぐしで整え、立ち上がる。

「イッ!」
「ああ!なまえちゃん足を怪我してるんだよ!」
「わ、忘れてた!」

ズキンと走る痛みに思わず涙目になる。
伊作くんが呆れたようにため息をついた。

「文次郎、なまえちゃんを学園長先生のところまで運んであげてよ
「なんで俺が?伊作が運べばいいじゃないか」
「僕が運んだらきっとなまえちゃんの怪我が増えちゃうよ
「ああ……」
「え?どういうこと?」

私の言葉を無視して、文次郎君は軽々と私を持ち上げる。ここに連れて来てもらった時と同じ、俵を担ぐようにだ。
すると、「はぁ〜」という深いため息が二つ聞こえた。

「文次郎、それはないんじゃないの?」
「なまえさんは女性なんだし、少しは考えたらどうだ?」
「そ、そうか?」

伊作君と土井先生にダメだしされ、文次郎君は一度私をおろす。
そしてちょっと考えて、次は私の背中を支え、膝の裏に手を入れて持ち上げた。
いわゆる『お姫様抱っこ』ってやつだ。

「これでいいか」
「そうそう、最初からそうしなきゃ」
「ちょ、ちょっとまってこれは…!」

なんか恥ずかしいぞ!
これならさっきの俵のような担ぎ方の方が良かった!
が、あわあわと百面相する私の事など気にもせず、土井先生は「じゃあ行こうか」と言う。
結局、私はそのまま学園長先生のいる部屋の前まで連れていかれた。

文次郎君がそっと廊下におろしてくれる。「ありがとう。腕に捕まってもいいかな?」とお礼と、それから断りを入れて文次郎君の腕に捕まって怪我をしている右足に体重をかけないようにして立つ。

土井先生が「失礼します」と言って障子を開ける。それから、中に通されて、おずおずとその場に座った。
目の前には座布団がひいてあるが、誰もいない。不思議に思って首を傾げていると、いきなりボン!という破裂音がして部屋に煙が充満した。

「げほっ!げほっ!!」

突然の事に驚いて大量の煙を吸い込んでしまう。
なんだこれ、苦しい。涙が出る!

「私が学園長の大川平次渦正である!」
「なに、げほっ!これ、げほっげほっ、げほっ!」
「だ、大丈夫かい?」
「す、すみま、げほっ!」
「学園長先生〜!彼女は一般人なんですよ!」
「おおすまんかった!所でまず名前を教えてくれんかの?」

ぜぇぜぇと何とか息を整え(いや、もう本当死ぬかと思った)、自分の名前を答える。それから、今まで文次郎君と伊作くん、それから土井先生にした事と同じ説明をする。
それを聞き終えた学園長は、よし!と言って私が予想だにしなかった事を言い出した。

「ここで事務員として働くがいい!」
「え、えーと、学園長先生?それは嬉しいんですが、こんな怪しいのを雇って良いんですか?」
「なに、人手が足りんかったのじゃ。それに、足の怪我が治っても帰る場所も無いんだろう。ならばここで住み込みで働けば良い」
「は、はぁ…」
「よーし!ならば採用じゃ!怪我が治りしだいよろしくたのむ!」

そんな感じでとんとん拍子に決まり、再び保健室に戻ったが、私はぽかーんとする他なかった。

「こんなんで、いいのかなぁ」

いや、よくない気がする。