「あ、起きた?」

布団に座ったままぼーっとしている私に気づいた善法寺さんが私の方へやってくる。

「はい。あの、いつの間にか寝たのか、全然覚えてないんですけど」
「えっと、昨日土井先生が帰った後、3人でお茶飲んだの覚えてる?」
「えーと、お茶…」

そんなのした?と頭の中からその記憶を探す。あ、あー、あったあった、したした!土井先生が帰ったあと、善法寺さんが「ちょっと落ち着いてお話しでもしようか」と言ってお茶を入れてくれたんだ。それで、善法寺さんの入れてくれたあったかいお茶を飲んで、善法寺さんが保険委員長だって話を聞いて、それで…

「私、お話ししてる途中で寝ちゃったんですね」
「うん。うつらうつらしてると思ったら、文次郎の肩に寄っかかって寝ちゃったんだよ」
「え!そうなんですか…いや、それは、そのすみません
「仕方ないよー、疲れてただろうしね」

ふふふ、と笑う善法寺さんに、私は少し恥ずかしくてパタパタと手で顔をあおいだ。

「あれ、そういえば、潮江さんは?」
「文次郎は、多分もう少ししたらくると思うよ?」
「そうですか」

昨日潮江さんに寄っかかって寝てしまった件は、あとで謝まろう。
そう一人で心に決めていると善法寺さんが「そういえばさ、なまえちゃんていくつなの?」と聞いてきた。ので、なんの迷いも無く答えると、善法寺さんがびっくりした顔をする。

「え、なんでそんなに驚くんです?」
「いや、てっきり同じかとし下だと、思ってました…」
「え?じゃあ善法寺さんは幾つ何ですか?」
「15、です」

その答えに今度は私がびっくりする番だった。15?見えない。同い年か年上だと思ってた。だって、何だか見た目も中身もしっかりしてるし。

「すみません、なまえさんの事今まで馴れ馴れしく呼んでしまって」
「え!や、やめてくださいよいきなり敬語だなんて!」
「でも、なまえさんは年上ですし」
「いやいや、やめてくださいよ!!今までのまんまでいいですよ!」
「う、うーん、そこまで言うなら…」
「うん、堅苦しいのはやめにしましょう!」

そう善法寺さんい提案すると、善法寺さんは「じゃあなまえさん、いやなまえちゃんも敬語はなしで!」と言い出した。

「えー…」
「そうじゃないと、僕も敬語をつかいます」
「じゃあ、敬語やめる」
「うん!あと、善法寺さんなんてのもやめて、伊作って呼んでよ」
「う、うん、わかった。でもいきなり呼び捨てはあれだから、伊作君て呼ぶね」
「はい!」

そうして、私と伊作君の中は少し近くなった。
2人でいろいろと話をしていると、「失礼します」という声がして、潮江さんが入ってくる。

「あ、潮江さん、おはようございます」

と私が言うと、伊作君は「なまえちゃん、もうとっくに夕方だよ」と笑った。

「え、もう夕方なの?」
「そうだよ」
「てことは私昨日の夜から今までずっと寝てたってこと?」
「うん」
「な、なんかいろいろごめんね

そんな話を二人でしていると、潮江さんが「なんか、仲良くなっとらんか?おまえら」とぼそりと呟いた。

「え、そうですか?仲良く見えますか?」
「いや、何となく、雰囲気が…」
「えへへ、実はさっきから二人でお喋りして、ちょっと仲良くなったかなーなんて」

と私が言うと、潮江さんはバッと伊作君を見た。
お?何だ?と思ったがすぐに伊作君が「それよりさー」と口を開く。

「文次郎もなまえちゃんともっと仲良くなったら良いのに。なまえちゃんを助けたのは文次郎だし。ね?」
「な、何を…」
「なまえちゃんは、文次郎と仲良くなりたくない?」

にこにことと伊作君が尋ねる。
潮江さんと仲良く、か。確かに私を助けてくれたのは潮江さんだし、お礼がしたい。それからこの場所で頼れる人は伊作君と潮江さんだけだ。不仲にだけはなりたくないと思う。

「私、潮江さんとも仲良くなりたいですよ」

にへら、と緩んだ笑みと一緒にそう言うと、潮江さんは「はぁ、」とため息をついて、私の前に座った。

「まあ、何だ。仲良くやるに越した事はないしな」
「そうだよ!なまえちゃん、文次郎の事も潮江さんなんて言わずにさ!」
「え、でもさすがに潮江さんくらい年上の方には…」
「え?」
「え?」
「え?」

この「え?」は上から伊作君、私、潮江さんである。
それから伊作君がちらりと潮江さんの顔を見て、「あー」と納得したように声を出した。

「なまえちゃん、文次郎はこう見えて僕と同じ年なんだ。つまり文次郎も15歳だよ」
「えっ、えぇえ?」
「ちょっとまて伊作どういう事だ?」
「どういう事も何も、なまえちゃんが文次郎の事をだいぶ年上だって勘違いしてたみたいだよ。というか、文次郎はなまえちゃんがいくつか知ってる?」
「一つ二つ下か、せいぜい同じじゃないのか?」
「ぶっぶー、違うんだよねそれが」
「私の方が年上だったんですよね〜びっくり」
「なん、だと!?」

心底びっくりしたというように潮江さんが目を見開く。が、こっちも結構びっくりしている。伊作君は15歳と言われれば、なんだかそう見えるような気もする。が、潮江さんは全くもって見えない。だってこんなお父さん、いそうじゃん。

「年下と思い込んでいたとはいえ今まで無礼な言葉使いをして申し訳ありませんでした」
「えええぇえ潮江さんもそうなるの!やめてくださいよ敬語なんて!今までのままでいいですって!」
「しかし…」
「文次郎、なまえちゃんなかなか頑固だから聞いてくれないよ」
「はい!聞きません!敬語をやめてもらわないと聞きません!」
「…じゃあ、今まで通り行かせてもらう」
「はい!それでいいです!」
「が、やはり年上に敬語を使われたりさん付されるのは…」
「じゃあ私も使わないし、潮江さんって言わないから!!なんて呼んだらいいかな!」
「名前は好きに呼んでくれて構わん」
「じゃ、じゃあ文次郎君とか」


いいかな?と聞けば文次郎君はコクンとうなづいた。

「えへへ、よろしくね文次郎君!」
「ああ、よろしくみょうじ」
「あ、お、おう」

苗字で呼ぶのね文次郎君。