「それでは、また要りようになりましたら呼んでください」

ペコッとお辞儀をして、咲さんは私がたいらげたご飯のおひつと一緒に部屋から出ていった。

二人きりの部屋の中で正座して向き合う。
最初に先生が口を開いた。

「あの、診察って言うよりは、ただ話がしたかっただけなんですが」
「さいですかー」
「色々聞きたいんです。なまえさんが来たときの事や、頭痛が起きた時のことを…」
「…えと、来たときは事故にあったと思ったら森みたいなとこにいて、頭痛の時は、なんかひたすら痛かったです」
「何か声とか聞こえませんでしたか?」
「声ですか?なんかグラグラしてたからよくわかんないです」

そうですか、と先生は呟く。

「なまえさん」
「はい」
「私と一緒に暮らしませんか?」
「………………プロポーズですか?」

そんなー、まだ出会って1日も経ってませんよー。せっかちさんですね!と言うと先生は「そ、そう言う意味ではなくて…」と慌てた。

「私もなまえさんも、訳もわからずこの時代に来ました。もとの時代に帰る手がかりも二人なら見つけやすいと思うんです。」
「でも、私死んでるかもしれませんよ?」
「死んでないかもしれません。」
「家とかお金とか、私ないですよ?」
「私は、ここで医者として働いて、少しですがお金も貰っています。贅沢は出来ないですが、なまえさん一人を養う事はできます」
「なんか、本当にプロポーズみたいですね!」

「こんなので良かったら側に置いてください。」と言うと先生はにこっと笑って「はい」と言った。


「けど、問題は家ですねー」
「それなら、私が咲さんたちに頼みます」
「ん、ちょっと私にやらせて貰えますか?」
「え?」



「父も母も、私が物心着いた時に亡くなりました!そのあと引き取ってくれた祖母も、去年亡くなり、私は今独り身で、家もお金もありません!そのうえ、畦道で足を滑らせ転んだと思ったら、全く知らない所で…、もう私はのたれ死にするしかありません…どうか、どうか私をここに置いては頂けませんか?もちろん、そのぶん働きますゆえ…!」
「まぁ、可愛そうに…恭太郎、咲、良いですね!」
「はい母上!」
「喜んで向かえましょう!」
「あぁ!ありがとうございます!!神様仏様はこの世にいるんですね!」

わっ!となまえが手で顔を覆ったとき、ニヤリと笑ったのは、そのやり取りを後ろから見ていた南方しか知らない。