ずり、ずり、と重い足を引きずりながら道をあるく。

あのあと、男は痛みでか失神した。私は取り合ず刀を持ったまま走って、近くにあった池に刀を放り投げて捨てる。捨てた瞬間、ガクンと膝から力が抜けてそのばにへたり込んでしまって、それから今までぜんぜん痛くなかった二の腕や頬の傷も痛み出す。
息が苦しくて、目から涙がジワリとにじんで、こぼれそうになった。


「だめだ、帰らないと」


あふれそうになる涙をぬぐって立ち上がる。
ガクガクする足を殴って、叱咤して、走り出した。

橘の家の門の前に着いたときには、周りはもう真っ暗だった。
『橘』と描かれた表札を確認した瞬間、また崩れ落ちそうになる。
しかし、「なまえさん!!」と呼ばれ、ぐっと持ちこたえる。
呼ばれたほうを見ると、そこには先生がいた。


「せ、先生」
「なまえさん…?」
「せ、せんせぇ…」

ボロッっとこらえていた涙が目から流れ落ちる。
私は思わず先生に飛びついた。

「せんせぇえぇえ」
「なまえさん、よかった。さっき帰ってきたら、なまえさんがいなくて、それで私、探しに行こうと…」
「せんせぇ…ぶじでしたかぁ…!」
「ええ、無事です。怪我一つないですよ」
「よ、よかっ、よかった!!」

ぼろぼろ泣きながら、私はぎゅうぎゅうと先生に抱きつく。安心からか、ひざから力が抜けて、倒れそうになるが、先生がしっかりと支えてくれた。

「なまえさん?大丈夫ですか?」
「だ、だいじょ…」
「なっ…」


* * *


「んっ…あれ……」


ゆるゆると目を開けてあたりを見渡せば、そこは先生の部屋で、私は布団の中だった。
私、寝る前何してたっけ?
よいしょと起き上がた瞬間、腕に痛みが走って、「ああそうか」と思い出す。

本物の侍に喧嘩売ってぼろぼろになって帰ってきて、気絶しちゃったのか。
あー、これは絶対あとで先生にこっぴどく怒られるぞ。
と頭を抱えていれば、すっと戸の開く音がする。
顔をあげれば、そこには先生がいた。

「あ、先生」
「なまえさん…」
「いや、その、」

すごい剣幕で先生がこちらへ来るものだから、私はもしやぶたれるんじゃないかとグッと目をつぶっる。しかし、そんな衝撃は来なくて、むしろ、先生は私をぎゅっと抱きしめた。

「先生…?」
「もう、なまえさんは…」
「あの〜」
「ビックリしましたよ、帰ってきたと思ったら、気絶して、良く見たら血まみれだし体中傷だらけだし」


ぽつりぽつりと消え入りそうな声でそういう先生に、申し訳なくなって「すみません」と言えば、先生はがばっと顔を上げて「ほんとうに!!そうですよ!!」と叫んだ。

「っ!はいっ!」
「心臓が止まるかと思いましたよ!!」
「はい!!」
「顔に傷までつくって!!」
「す、すみません…」