ガッと地面を蹴り上げて男の顔面に土をかける。
男が思わず顔を覆ったその隙に、竹刀で笠を飛ばす。
もういっちょ、脳天に入れてやろうと思ったが、相手は武士。素早く男が刀を振る。
思わずのけるが、シュッと刃が二の腕とほほをかすり、ぱっくりと傷ができた。
じわ、っと制服の袖が赤く染まる。頬がだんだんとぬれる感触もした。
相当興奮しているのか、痛くはない。

「それまでだ、小娘。」
「チッ」

にやり、と男が汚く笑うが、こっちはここで終わらす気なんて毛頭ない。
汚い手を使ってでも、生きて帰ってやる。

じりっと竹刀を構える。
しかし、相手は本物の刀。こっちは竹刀。
これでは勝てない。

なんとかして、あの刀奪わないと…
いや、考えてもいいことなんて思いつかない。
とりあえず勢いをつけて竹刀を男に叩き込む。
がカンタンに刀で受け止められる。
ぎりぎり、と音をたてて刃が竹刀に食い込む。

「竹刀が折れるぞ」
「そうかもね」
「いい、少し遊んでやる」

男は刀にかけた力を抜いて、私を地面に転がした。

「うっ」

思わず息が詰まる。いや、へばってる場合じゃない。
素早く起き上がって竹刀をまた構え、男が刀を振り下ろすのを受け止める。
じり、っと押される。
また刀の力を抜いたかと思うと、次は男の腕が私の首を掴んだ。

「ぐっ……」
「どうだ、苦しいか?」

ぐぐ、と首に指が食い込む。
ニヤニヤ笑いをいっそうひどくする男。
こいつ、私に勝てると思ってる。

私はガクリと体の力を抜いて、目を閉じた。


ふと首を絞めている手の力が抜ける。


いまだ


ありったけの力をこめて男の股間に足を思いっきり叩き込む。
「う゛」と低い声がした。
それから倒れこむ男の背中に、肘を打ち付ける。
もうその後は一心不乱に男を殴った。
殴って、刀を奪い取る。
戦略もくそもないが、刀を取ってしまえば、こちらが有利になる。


「はぁ、はぁ…」
「畜生、こ、小娘がぁ…」
「まだ、死にたくないんですよ」

倒れている男を見下しながら、竹刀よりもはるかに重い刀をぎゅっと握る。
人殺しはしたくない。
が、このままじゃこの男はすぐ立ち上がるだろう。
それでは私が殺されてしまう。


「ごめんなさい」


そう言って私は刀を男の足に突き刺した。