「せ、せんせ、まって〜!」

全速力で私の前を走っている先生を追いかける。
どうやら私の声は聞こえて無いみたいだ。
くっそう、けしからん生足が見えてますよー!


「っ、はぁはぁ、死ぬ…っ!」

私が息を切らして先生に追いついたとき、先生は飲食店(というのだろうか)の長蛇の列に並んでいる老人となにやら話している。

何の話なのか聞きたいのだけど、そんな事より息が苦しい。

「せ、先生ぇ!一体何がどうなって…」
「なまえさん!居たんですか!詳しい話は橘の家についてからします!」
「えぇ!また走るんですか!ちょ、先生!」

すでにもう数メートル先にいる先生。
とりあえず先ほど先生が話していた老人に、慌ただしくてすみません、と頭を下げて、とっくに見えなくなった先生の後を追った。


橘の家に着いて、先生の部屋へ。
「で、何がどうなったんですか?」と聞くと、「ペニシリンが作れるんです」と少し興奮気味に先生が言った。

「本当ですか?」
「ええ、この時代でもできるやり方を思い出したんです!」
「おぉ、では今から先生一人で作るんですか?」
「いいえ、私がいつもお世話になっている医学所の方たちに手伝ってもらおうと思うんです。だから、ほら、早く準備しないと!!」


そう言って先生はガチャガチャと手当たりしだいに器具をつかみ、箱に入れていく。
その音を聞いたのか、咲さんがやってきた。


「どこへ行かれるのでございますか?もしや、あの…吉原に!?」
「な、なに言ってるんですか!医学所ですよ!当分の間泊り込みでちょっと」
「は、はぁ、さようでございますか」
「梅毒に効く薬に挑戦してみようと思いまして」
「できるのでございますか!?」
「理論上は可能なんです」


てきぱきと準備を進めていく先生に、私と咲さんがほぼ同時に発言した。

「あの、なにか手伝えることはないですか?」


それを聞いた先生は、ちょっと驚いた顔をして、それからニコリと笑っていった。


「アオカビを集めてもらえませんか?できるだけ、いろんなところの!」