病室から一組の夫婦が出ていく。

女性の方はこめかみを押さえてため息をついている。男性はそれを慰めるように肩を叩いていた。

俺も先ほどの夫婦が出てきた病室に入る。
そこにはベッドの上でボーッと天井を見つめているみょうじがいた。

さっきのは、みょうじの所の両親か。
そういえば、母親の方はみょうじが記憶喪失になったと聞いて倒れそうになっていたな。と思い出す。


「おい」
「あ、速水先生ー!来てくれたんですか?えへへ嬉しいなぁ!」

「さぁさ横にどうぞ!」とニヤニヤ笑いながらベッドをポンポン叩くみょうじにイラッとして軽く頭をしばく。
みょうじはおおよそ女らしくない、可愛くない「イデッ!」という悲鳴を上げた。
それを気にせず、直ぐに診察を始める。


「頭痛は?」
「ないです!」
「目眩、痙攣などは?」
「ナッシング!」
「ほか何か体調の優れないことは?」
「ないですよ!あえて言うなら速水先生が会いに来てくれて心臓がドキドキ……!」
「精神科にブチこむぞ?」
「すみません……」
「…なら、思い出した事はないか?」
「なーんにも!!」


「もう思い出さないじゃないですかねー」とケラケラ笑うみょうじ。両親とは偉い違いだ。


「お前は悲しんだりしないんだな」
「なにをですか?」
「記憶喪失になったことだ」
「あー、全部忘れてるのに何を悲しむんですか?あ、でも速水先生の事を忘れちゃうのはやだなぁ…、もし忘れたら泣きますね!」
「なんの説得力もないな」
「えー?うそだー!絶対うそだー!」
「お前は稀にみるバカだな」


むにーっとみょうじの頬をつまんでひっぱる。
「いひゃいいひゃい」と言いながらうっすら涙を浮かべる姿は最高だった。