厄介な患者が入ってきた。
思わずため息がでる。

頭部の打撲、意識不明で運ばれてきた患者。
数日の間意識不明だったが、つい昨日、目をさました。
その時の第一声が「ここどこ?私だれ?」だ。

記憶喪失の定番。
一瞬「ふざけてんのか」と突っ込みたくなった。が、本当に記憶喪失らしく、親の顔を見ても「誰?」とケロリと言った(因に親のほうはそれを聞いた瞬間倒れそうになっていた)。

記憶障害以外に特に問題はなく、体調は至って良好。
黙っていれば至って普通の患者だ。

黙っていれば。


「速水先生ぇぇぇえ!!!!」


どーん!と腰のあたりに衝撃が。
ひっぺがしてみると、やはりと言うか当然と言うか、厄介な患者、みょうじなまえがいた。

「速水先生ー」
「なんだ?静かにしろバカ」
「いやー先生の背中が見えたんでこれはと思いまして!はぁぁあ!先生はいい臭いがしますねぇ」

ふにゃふにゃしたウザったい笑顔をウザったいほど撒き散らすみょうじ。

不本意だが何故かなつかれてしまい、ウザイと冷たくあしらおうが、睨もうが、何だろうが、何処からか現れまとわりつく。

うっとおしい。

イラッとして「キモい、ウザイ、消えろ」と言ってみる。
しかし、やはりそれは全くと言って良いほどみょうじには効果がなく、みょうじはまたウザったいふにゃっとした顔をして言うのだ。


「そんな事言う先生も素敵です!」