人間て、飛べるんだ!
私、初めて知ったよ!

なんてアホなことを思っている場合ではない。
飛んでるんだよ!?いや、違う、飛んでない。落ちてるのだ。空から、一直線に。
なんで?なんで落ちてんの?私、学校に行く途中だったよね?なんで、なんでだ!!て言うか、


「オーマイガーーーーあああ
   あ

  あ


    あ

 あ

  あ

   あああああぁぁぁ うっ!」


ボスッ!と何か柔らかい物に腰からおもいきり落ちて沈む。
少々腰がジンジンするけど、地面に直じゃなくて良かった。本当によかった。
「よっ」とその柔らかい物から這い出す。
出て分かったのだが、私が落ちたのは高く積まれた藁の山だった。


「藁…で、ここどこ?」

回りを見渡せば、そこに広がるのは藁と馬と、大きなお城。

「彦根城…?なわけないか。……、それにしても頭痒い…」


うーん、チクチクするなーと頭やら身体やらを、ガリガリとかきながら、取りあえずいく宛も無いので、目の前にどんと立っているお城に向かうことにしてみた。

「シャワー浴びさせてもらえたらいいな」
そんな淡い願いを持って私は歩き出した。

はずなのだが…


「あのぉ…縄…」
「黙れ!」
「すみません」

何故に私は縄でぐるぐる巻きにされ正座しているのだろうか。
いや、ここまでの流れは分かる。
城の入口はどこかと探していたらいきなり捕まって縄をかけられたのだ。
だがその理由が分からない。なにもしてないじゃん。ちょっと帰り道を聞こうとしただけじゃん。あわよくばシャワー貸してもらいたいなとか思ってただげじゃん!しかも何でみんなチョンマゲなの!?

「わからん…」

ぼそっと呟いたそのとき、私のそばにいたおじさんが急に座り込み、頭を下げる。
何事かと思えば他のおじさんが「殿のおなりじゃ!」と叫んだ。

一斉に回りがハハァッ!と頭を下げた。
私は何がなんだか分からずに、ポカンとその"殿"を見上げた。
怖そうな顔をしている、しかしキリッとしていてカッコイイ。たしかに"殿"って感じだ。

「その物」

殿が口を開いた。
思わず「あ、私ですか?」と聞くと、「そうだ」と言った。おじさんたちが私を怖い目で見つめる。


「お前、何者だ?我が城の前で何をしていた?」
「いや、しがない通りすがりの者でして、迷子になったので帰り道を聞こうと思いまして…ていうか、これって大河ドラマか何かですか?私役者じゃ無いんですけど…あ、もしかしたらドッキリ?」


そう聞くと、いきなり横にいたおじさんに前髪を捕まれた。
痛いです。

「おぬし、ちゃんと物を申さぬか!意味の解らんことばかり言いおってぇ!」
「いや、こっちの方が意味分かんないって…」
「口を慎まんか!」
「うぅ、理不尽だ…」

バッと乱暴に捕まれたかと思えばまた乱暴に離される。畜生、絶対髪の毛抜けた。将来ハゲげたら絶対コイツのせいだ。覚えてろよ!

「まぁ良い。こうすれば嫌でも話すだろう」

殿がニヤリと笑って腰にさしていた物を引き抜く。間違いない。刀だ。
それをスッと私の首にあてがい「怖いか?」とまたニヤリと笑った。

いや、怖いっていうか


「本物ですか?」
「ふ、本物以外に何があると言うのだ?」
「いや、良くできたレプリカかなぁ、と」
「れぷりか?なんだそれは…。良く分からんが…」


"己の運の悪さを後悔するんだな"
そう殿が言った瞬間に刀が振り落とされた。
思わず目を瞑る。
しかし、なんの衝撃もないので、恐る恐る目を開ける。
すると、殿のは綺麗に鞘に納められていて、私の首は飛ぶわけでもなく、無事に身体に着いている。


「あれ…、殺さないんですか?」
「気が変わった。お前の話をもっと聞かせてもらおう。おい、この者の縄を解け」
「し、しかし…」
「いいから解けと言っておるのだ」
「は、ははぁっ!」


かくして私は無事に縄から解かれ、殿直々に城の中に案内されるのであった。
ああ、私は一体どうなるんだろうか。

いや、まぁ、気にしなくてもいいか。