グラサンのお兄さんの名前は「アルバート・ウェスカー」と言うらしい。
この人、ウェスカーさんは、顔はかなりのイケメン(しかも私好み)だが、かなり強引にマイウェイである。

私を通学中に拉致り「アジア系の実験がしたかった!」なんて笑いながら言って変なことしたり、いきなり好きだとか言ってキスしてきたり、それから、夜も悲惨だった。
ウェスカーさんは「ベッドが一つしかないんでな、これで二人で寝るぞ」と少し大きめのシングルベッドをニヤケながら指差して、(強調したいのはシングルベッドだ。広めと言っても少しなんだから、まぁ言えば普通のシングルと大差変わりはない。)
「床で寝ます!」と精一杯断る私を無理矢理ベッドに連れ込み、挙げ句のはてには朝には私をベッドから突き落としていた。
お陰で身体中痛いよ!!



「最悪だ…」

朝、パンを食べながらボソリと呟く、それを聞いたウェスカーさんが鼻でフッと笑った。
「お前が私にちゃんと抱きついていないからだ」
「頭わいてんですか?」
「そんなはずはないな」

馬鹿だ!こいつ馬鹿だ!
誰が拉致して、変なことして、いきなりキスしてきて、ベッドに無理矢理引きずり込むような、えたいの知れないヤツに好き好んで抱きつくか!


「所で、私いつ返して貰えるんですか?何も言わないで学校休んだ挙句、家にも帰らなかったから、今頃きっと大変な事になってます」
「その事なら心配はない」

ウェスカーさんはフッと笑って、新聞を取り出す。

「昨日、君の学校の近くで、トラックと乗用車がぶつかる酷い事故があってな」
「それが?」
「君は、それで死んだ事になっている」
「は?どゆ、意味…?」

ポカンとしていると、ウェスカーさんが私に新聞を渡す。
その事故の記事を見てみると、確かに、「日本人留学生なまえ・みょうじが巻き込まれ死亡」と書いてあった。

「えぇ?何で?」
「私は色んな所に顔がきくんでな」

そう言って怪しく笑うウェスカーさんを見て、回りの気温がいきなり下がったような感覚がした。
もしかして、私このまま帰れないんじゃないか?だって死んだ事にされてるくらいなんだから…

「わ、私………」

ポロリと私の手からパンが落ちた。
ウェスカーさんがクスリと笑う。

「君はもう私の物なんだよ」

それの言葉を合図に私の涙腺はぶっ壊れた。
とめどなく涙がボロボロと溢れていく。
(今ならナイアガラの滝にも勝てる。絶対。)
ウェスカーさんは、そんな涙まみれの私の顔を大きな手で拭う。
それから何度も何度も私の目元にキスを落とした。


「あ、あぁぁあう、うぁ、うぁぁあん!」
「泣けばいい、私が慰めてやろう」
「ふぅ、ううう〜、うぁぁあー!」


気温が下がったのは気のせいかな?
(「私を日本に返して」その言葉は喉につっかえて出なかった)