「仮設が出来そうだ。」
「明日工場へ行こう。そしたら仮設ができる」
と先生が言ったのは昨日。

私は訳もわからず「行きたい!」と言ったが、先生は渋い顔をして「学校に行ってからだ」と言った。学校に行かないと連れていかないと言うので私はクソツマンナイ授業を今日1日死ぬ気で耐えたのだ。


「おぉう!すげー、やっぱり工場って色々あるんですね!」


そして今に至る。

「ふわー、先生これ何に使うんですか?
あ、すごいネジ!すごい!」
「みょうじくん」
「はい!」
「うるさい」
「うぎっ…すみません」

素直に謝ると、先生は「わかればいいんだ」と言ってフラフラと歩いて行った。
そして金属製品が置いてある台の前で止まる。
そしてその金属製品を手にとって眺める。
すると、近くにいた男が慌てて注意した。

「あっと、失礼。金属製品を素手で触るのはご法度だったね。塩分で錆びてしまう」

先生が金属製品を置くと、男は罰の悪そうな顔をしてさって行った。


「先生、ひねくれてますね」
「いたのか」
「いましたよー」
「まぁ良い。帰ろう」
「もういいんですか?」
「あぁ」




工場を出るといきなり先生が笑い出した。
「実に面白い!」なんて言っている。
何が面白いのかよくわかんないけど、横にいた内海さんがぷるぷると震えていた。

「何が面白いんですか!人が一人亡くなってるんですよ!それも、まだ…20歳にもなってない男の子が…」

握っている拳が震えている。
今にも殴りかかりそうだ。

「ふざけるのもいい加減にしてください!」

内海さんはギッと先生を睨むと、早足で去っていった。


「…分からない」
「先生、謝ったほうがいいですよ」
「……」

先生は私をみて「何故?」と言うような顔をした。
「先生の考えは普通の人にはわかんないですよ。」と言うと、先生は「ふー」とため息をついて携帯を取り出し、何やら打ち出した。
「あ、メルアド教えてください!」
「研究室に戻ろうか」
「え?あ、メルアドは!?」
「またあとでだ」





「内海さん来ませんねー。嫌われたんですかねー」
「僕は嫌われたってかまわない。ただ誤解を解きたいだけだ」
「誤解ありまくりですもんね」


なんて話していると、ドアが開いた。
内海さんはまだ怒っている様子だ。

「何なんですかこれは!?」

と先生の前に携帯を突きつける。
内海さんの携帯の画面には、2つの顔文字の間に渦巻き。と言う不思議というか意味不明な図が、


「なんじゃこりゃ」と言うと、先生が解説を始めた。


「これは君、これは僕。この渦巻きは君と僕の間の誤解だよ」
「だからなんなんですか?」
「だから、僕が面白いのは実験であって、けして人が死んだのが面白い訳じゃない」

そう言い、先生は満足したようにパソコンに向かう。

「ぅ…じゃあ実験ってなんですか?」
「それはまだ言えない」
「ぅ、…な、なんでぇ?知りたいの!なんで、なんで人がいきなり燃えたの…?」


内海さんはいきなりポロポロと涙をを流し始める。先生はそんな内海さんを見て焦った顔になった。
(男の人は本当に女の人の涙に弱いんだな!)
そんな先生に向けて内海さんは「わ、私が刑事になった理由…」と話し始めた。

「昔、私が子供のころ…家族でロサンゼルスに行ったんです…ぐすっ、でも、そこでっ、両親はマフィアに殺されたのっ…!でも、それは、人違いで…、そのマフィアは、…と、隣の部屋のチャイニーズマフィアを、狙ってたの…!そ、それなのに…!!」


うううっ、と内海さんは手をを目に当てる。それは明らかに嘘泣きだった。
内海さんは手で目を押さえながら、ちらちらと先生の様子を伺っている。
そんな事にも気づかない先生は、立ち上がりハンカチを内海さんの前に置いた。

何だか申し訳なさそうな顔をしている先生に対して内海さんは芝居を続ける。

「私はきめたの…!悪いやつは、私が裁くって…!ぐすっ…だから、だから教えてください…!」

とどめだ!と言うように内海さんはうわぁぁぁあん!と声を上げた。

「…っ、それは…」

先生はまんまと内海さんの嘘泣きに引っかかり、全てを話した。
内海さんがハンカチの下でニヤリと笑ったのは私しか気づいてないに違いない。