「だっる、だっるー、明日テストとかだっるー」

はぁ、とため息をつきつつ、独り言をつぶやきつつ、ブラブラと通学路を歩く。学校が早く終わってくれるのは嬉しいが、なにせんテストは嬉しくない。テストなんてそんなもの犬に食わせてしまえ。ええいくそ、犬がいねぇ。


「テストなんてやってなんの意味があるのかまったくーねぇそう思わないなまえちゃん?ウンウンソウダヨーネー!イミナイヨー!なまえチャン!」


なーんて一人で言って一人で返事する。はたから見ればなんて寂しヤツだ。いや、寂しいヤツとかぶっこえてキチガイみたいじゃないか。こんなときに話してくれる相手が居れば良いのに……

「虚しすぎるよ私……、ん?」

チョロリと溢れ出す涙を拭って、ふと見た先に何やらひときわ輝く眩しい背中を見つけた。「あれは…」ドキドキと心臓が高鳴る。そして私の本能がビンビンと叫んだ。あれは帝都大学理工学部物理学科の湯川さんだよなまえ!!


「うっひゃー!」

これは一緒に帰る友達もいなくて一人でブツブツ独り言を言ってるかわいそうな私のために神様がくれたラヴ・ハプニングなのかもしれない!いや、むしろもうビンビンに赤い糸で私たちはつながってるのかもしれない!
私は、嬉しさに身を任せためらいなく先生の素敵な背中に突進していった。

「先生ーッ!!!」
「っ!?」
「うへへ!いい臭い〜」
「ッ…君は、みょうじ君の…」
「妹でっす!」
「何故こんな所に…」


心底癒そうな顔をする先生のことなどまるっとむしして、私はスーツに顔を押し付けてすんすんとにおいをかいだ。ああ、いいかほり、なにこれフローラル?あ、ちがうそんなその辺のもので表せるようなにおいじゃない。もっとこう……


「神聖な……」
「っ……、離れろっ!」
「オフッ」


先生はぐぐぐっとその大きな手で、私の頭をつかんで、引き離そうとするが、だれが離れてやるか!そんな攻防戦を続けていると、「あの〜」と遠慮がちに誰かが声をかけてきた。その声の主を見ると、何か言いたげな綺麗な女の人が、


「せ、先生の彼女!?!?」
「ち、ちがいますよ!」
「え?違うんですか?」

先生に抱き着いたまま女の人に尋ねると、その人はむっと眉間にしわを寄せて「ここで事件があったので、先生に協力して貰ってるだけです!」と言った。事件?そんなのこの辺であっただろうか。んー、と思い出そうと自分の記憶を引っ掻き回す。すると、ポン!と一つ音を立てて出てきた。

「あぁ!いきなり頭が燃えたやつですか?」
「知ってるの?」
「だって近所だったから」
「え?近所!?何か知ってることはない?」

近所という単語に反応したのか、女の人がすごい剣幕でガッ!っと詰め寄ってくる。必死に情報を集めようと頑張っているのだろう。しかし、申し訳ないが私は近所でそんなことがあったということしか知らない。

「ごめんなさい、それくらいしか知らなくて……、あ、でも女の子がこの辺で赤い糸を見たって」
「赤い糸?」
「あんまり関係ないかもしれないけど……、その子、いっつもこの辺を散歩してるんだけど」

きょろきょろとその女の子がいないか周りを見渡すと、少し遠くで空を見ながら歩いている女の子がいた。「あ、あの子」と指をさせば、女の人は「ありがとう」と言って女の子の方に走っていった。しかし、先生は女の人を見送っただけで、その場に立ち止まったままだ。

「あれ、先生は行かないんですか?」

そう尋ねると、先生は不服そうな顔をして私の方を見て、言った

「子供は嫌いなんだ」
「へぇ、それはそれは」
「だからいい加減離れてくれないか?」
「いやですー!絶対絶対いやですー!」
「蕁麻疹がでる……!」
「あららそれは大変ですね!」
「だから離れてくれと言っているだろう!」
「絶対絶対絶対いやですー!!」

女の子から話を聞きいていた女性は、ぎゃいぎゃいと喧嘩するなまえと湯川の二人目を遠くからぽかんと見ていた。

(二人は何をやっているのかしら…?)