「良くできたな。ほら、アメ」
「いよっしゃー!やったー!」

ポロッと私の手のひらに落とされるイチゴミルクのアメを両手で大切に受け取って、それから大事に大事に制服のポケットへとしまった。

あれから先生にもらったアメは全部で6個。(一日一個ってとこか)
私は一つも食べずに大切にしまって、時折ポケットから出してはニヤニヤしている。

「そういえば先生…」

とふっと顔をあげると先生とバッチリ目が合う。
「ん?」と小首をかしげる仕草にうっと息をのみこむ。
何だそれ、誘惑してんのか?

「どうした?」
「いや、最近桜井先生の話しないなーと思って」
「な、そ、そりゃああれだ!あの、みょうじが勉強してるからだな!教育者としてそういう浮かれた話は慎むべきだと思ってだな」

先生の恋バナを聞くための時間は、今でただ二人で勉強する時間になっていた。

「教育者として」だけど、私の事を考えてって言うのが嬉しくて、少しにやけながら「そっかー」と返事した。


* * *


「たった〜たかさき〜たかさきせんせは〜ど〜こだ〜」

両手で国語のノートを抱えながら変歌なを歌う私。
決して変人では無い。ただ今日提出の国語の宿題を渡すべく、高崎先生を探しているだけである。
職員室に置いとけばいいじゃない!というツッコミはやめていただきたい。手渡しがしたいお年ごろなのです。

途中で会った田中に「高崎先生見なかった?」と聞くと「あっちにいたよ」と教えてくれたので、気を抜くと緩む頬を引き締めて向かう。

お、いた。あの背中は高崎先生だ。

「たかさ……」
「たけのこですか?」
「えぇ」
「っーー!」

考えるよりも先に体が動いてさっと物陰に隠れる。
高崎先生、桜井先生と喋ってる…

たけのこって、何の話しだよ。変だよ先生。でも高崎先生嬉しそうだし、桜井先生も満更でもなさそう。
「たけのこ、美味しいですよね」って。

胸が、ズキズキする。

やだなあ、何でこんなに胸が痛いんだろう。
高崎先生が桜井先生の取られちゃいそうだから?取られちゃうって、最初から私のものでもなんでもないのに。

「バカだ私」

きっと高崎先生は桜井先生とうまく行くんじゃないかなと思う。
可愛い桜井先生とかっこいい高崎先生は凄くお似合いだ。

まず私のこの思いは叶わないものだろう。だって教師と生徒だし。どこの漫画だよって!
ていうか多分若気の至りってやつだし、こうして悩んでる時間がもったいないっていうか、ていうか

「もうやめよう」

あの楽しい放課後とはバイバイだ。