最初はただ普通に先生として好きだった。 真面目で、でも時々抜けてて、変なこと言い出すのが面白かった。 でも、高崎先生くらい好きな先生は他にも何人かいた。 (たとえば理科の中村先生とか。ここだけの話、東雲はロボットなんだ!とか言い出して面白い) ことの始まりの多分二週間前、廊下の曲がり角で何やら立ち止まってどこかを見ている先生を見つけた。 何をしてるのかと思って、先生が眺めている方を見ると、中之条君と話す桜井先生。 ほほう。 女子のセンサーがピコンと反応する。 それから、後ろから高崎先生の肩をとんとんと叩いて、こう言った。 「高崎先生って、桜井先生が好きでしょ?」 高崎先生はびっくりしてとびのいて、それから顔を真っ赤にさせて「そそそそんなわけは!」とカミカミで否定しようとする。 それが面白くて、うひひ、と笑ってしまった。 「何を笑って…!断じて俺は桜井先生が好きとかそういうわけでは無くてだなー!」 必死にごまかす先生の後ろを中之条君と話しが終わったのだろう、桜井先生が通る。 ためしに「桜井先生こんにちは〜」と言ってみれば高崎先生はバッと桜井先生のほうを振り向いて「あー!桜井先生!こんにちは!」と嬉しそうに挨拶していた。 好きなんじゃん。 それで、にやにや笑いで「その恋、手伝ってあげようか?」と言って見た。 またあわあわとうろたえ始めた高崎先生に、「桜井先生の写真あげるよ」と冗談でいったら、お願いしますと頭を下げたのだった。 それから、毎日のように放課後、高崎先生のクラスの教室で桜井先生について話し合う。 (誰かが通っても怪しまれないようにとちゃんと教科書とノートを机に広げて) 高崎先生はウブなようで、最初のうちは「挨拶がうまくできない」やら「桜井先生が可愛くて近づけない」やら何処の中学生男子か、とツッコンでしまった。 そんな感じで、先生を異性としてなんて意識してなかったのに、ある日、「せっかく教科書もノートもあるから国語教えてよ」と私が言った時だった。 先生が適当に出した読解問題を解いている時、ふとノートから目を離して先生を見た。 先生は窓のほうを見つめ、ぼーっとしてる。その横顔に沈みかけの太陽の茜色が射して、なんだか少し色っぽくみえて、不覚にもドキリとしたのだ。 それからだ、回数を重ねるたびにドキドキするようになって、桜井先生に一途な先生に素敵だなという感情を持ってしまうようになったのは。 でも、そんな感情を持っても先生が好きなのは桜井先生で、その一途さも知っていたから、これは憧れで、恋心じゃないんだと言い聞かせた。 桜井先生について嬉しそうに話す先生を見ると、ドキドキじゃなくてズキズキするようになった気持ちには、知らないふりをした。 |