夜、私はヘンリーさんのベッドで横になってぼぉっと考え事をしていた。
(ちなみにヘンリーさんは、私にベッドを使わせてくれて、リビングのソファーで寝ている。)

ここ最近、いろいろとありすぎて、頭がこんがらがっている。
穴に落ちて、知らないバスルームにいて、ヘンリーさんと出会って、変な世界に行って、それからゴーストに襲われて……。
突拍子もないことばっかりおこりすぎて、怖さなんて感じてなかったけど、こうやって暗い部屋で一人になると、ゴーストに襲われたときの、痛くて、怖くて、どうしようもないあの感覚が襲ってくる。
今も、こうしているうちに襲われるんじゃないかって、そんな気がしてくる。


「……こわい」

するりとベッドからぬけて、リビングへ向かう。
ヘンリーさん、もう寝てるだろうか。
そろっと足音を立てないよう、ソファーに近づけば、目を閉じて横になっているヘンリーさん。やっぱ、寝てるか。と部屋に帰ろうとしたその時、ヘンリーさんの目が開いた。

「どうかしたかい?」
「あの……、ちょっと、寝れなくて」

そういえば、ヘンリーさんはおいでと私をソファーに促した。


「し、失礼します!」
「そんなに固くならなくてもいいのに」
「いや、なんていうか……その、あはは」
「ほんとはホットミルクでもだしてあげたいんだが、すまないね」
「いえ!そこまで気を使ってもらわなくても」
「そうか」

てんてんと静かになる。
ヘンリーさん、静かだからな……私がしゃべんないとこうやってすぐしーんとしちゃう、ってか、いや、そんなんじゃない!

「あの、すみません私が寝れないからってヘンリーさんまで起こしちゃって!」
「いや、いいさ」
「ヘンリーさん、」
「ん、」


ぽんぽんとヘンリーさんの大きな手が私の頭をなでる。
それが心地よくて、一人の時に湧いてきたきた恐怖を消すようで、ついつい体をヘンリーさんに預けてしまう。


「私、一人でいたらすごく怖くなって、それで、寝れなくなって」
「それが普通さ」
「ん、ありがとうございます」
「あの、ヘンリーさん」
「なんだい?」
「い、いっしょに、寝てほしいんです」
「……、」
「だ、ダメですか?」
「いや、私は構わないけど、なまえは、いいのかい?」


少し驚いた顔をしてそう訪ねたヘンリーさん。
私は、コクンとうなずいた。



◇ ◇ ◇


「ヘンリーさん、いつ、ここから出れるんでしょうか」
「どうだろうな……私にもわからない」
「ですよね」

2人でベッドにもぐって、そんな話をする。
ヘンリーさんの距離がすごく近くて、ドキドキするけどとても心地よかった。


「なまえも、はやく帰りたいだろう」
「ん……でも、」
「でも?」
「その、ヘンリーさんと離れるのは、ヤダなって」
「なまえ……」


よく考えたら告白みたいなことを言ってることに気づいて、「あ、いや忘れてください!」と布団にもぐった。

「なまえ?」
「もう、寝ます!」
「なまえ、」

しかし、それは無駄なことで、ヘンリーさんは布団をめくって、私を引っ張り出す。

「なまえ」
「うう……」
「私も、なまえがいなくなるのは寂しい」
「へ、ヘンリーさん」

ヘンリーさんはにこっと微笑んで、私の髪の毛をわしゃっとなでて、それからおでこにチュッとキスをした。
その瞬間、ぼんっと私の顔が熱くなる。
ヘンリーさんが「いやだったか?」と尋ねるから、私はぶんぶんと頭を振った。


「ぜ、ぜんぜん、いやじゃなかったですっ……」

そういって思い切って、ヘンリーさんのシャツを握れば、「っ……」とヘンリーさんの息をのむ音が聞こえて、ぎゅっと抱き寄せられた。すごく、あったかい。


「ヘンリーさん」
「なまえ」
「はい」
「キスしても、いいだろうか?」
「っ、はい」


返事をして、きゅっと目を閉じれば、唇に温かいものが当たる。
ちゅっちゅと軽くついばむようにキスをされて、どんどん顔が熱くなる。
ふとヘンリーさんが離れたと思って、目を開けると、優しい目で微笑まれて、そして唇を親指でするりと撫でる。


「ヘンリーさ……んっ…ふっ、ぁ」


くちゅりと私の口内にヘンリーさんの舌が入ってきて、歯列をなぞる。
それから私の舌と絡んで、口内を犯す。
こんなキス、今までしたことないし、ていうかキス事体が初めてだし、ありえないほど恥ずかしくて、気持ちよくて、頭がグラグラした。


「っ、ふぁあ……」
「……っなまえ」
「ヘンリー、さん」
「なまえ、愛してる」
「っ!わ、わたしも、です!」

ヘンリーさんの甘い言葉に、私は真っ赤な顔でそう返事して、それから、私はきゅっと彼のシャツを握り、ヘンリーさんに抱きしめられながらその日は眠った。
次の日の朝、起きて二人でベッドの上で正座して、照れながら朝の挨拶をしたのは、また後のお話。


キスミー・マイハート
(あの……その……)
(お、おはよう)
(あ、おはようございます)
(昨日はその、なんというか……)
(え、はい、その……)
(これからも、よろしく)
(は、はい!)