「もーんじろーーー」
「あ?」
「もんじ」
「んだよ」
「もんちゃん」
「それやめろ」
「潮江」
「お、おう」

文次郎の部屋で、本を読んでいる文次郎の邪魔をするごとく彼の名前を呼ぶ。「シオエもん」と言ったところで、「いい加減にしろよ!」と本をずっと見ていた文次郎が振り向いた。

「何なんだよ、さっきから」
「あのさぁ、今日ボーロつくったんだけどさ」
「食わねぇぞ」
「えっ!」

「当たり前だろ」と言ってまた本に向かう文次郎。
この野郎、髪の毛引っこ抜くぞ!!
とは言いたいけど言わないのだ!

「じゃあ、いいや、留とか小平太にあげるよ。でも、文次郎のために頑張って作ったから、文次郎に一番に食べてほしかったのに……」
「なんだよ、哀車の術か?」
「違うわブァカ」
「そんなに怒るなよ。どうせあれだろ。くの一教室で作った毒入りのやつだろ」
「違うし!個人的に作ったんだし!言ったじゃん、文次郎のためにって!」
「ほ、本当にか?」
「うん!うん!!」

まあこのボーロにはいさっくん特性の眠り薬が入っているのですが、毒じゃないし嘘はついてない。
少々怪しみながらももうちょっとで食べてくれそうな文次郎に私は(せいいっぱい)可愛くうなずいて、「だからさぁ!」とボーロの乗ったお皿を差し出した。
そろり、と文次郎がお皿に手を伸ばす。
よし来た。

「お前、やっぱ何か企んでるだろう」
「えっ、そんなことない!ないない!」
「お前分かりやすいんだよ!すぐ顔にでるからな!」
「ぐぬぬ、鍛錬バカかと思いきや……」
「お前な……」

鍛錬バカかと思いきや、なんかいろいろと鋭いぞこいつ。
さっさと食って寝やがれ!じゃないと私の補習が終わらないじゃんよ!
いやまて、今回の補習は6年生のうちの誰かにこのボーロを食べさせ、眠らせて髪紐をとることが目的なのだけど、ぶっちゃけもう髪紐とちゃえばよくね?ボーロ食べさせなくても髪紐とっちゃえばよくね?先生も見てないっぽいし、それでよくね?

「よし、もういいや」
「あ?」
「えい」
「な、おまえ何して、いてっ!おま!!」
「こら動くな文次郎!!」
「いや何してんだよ!!」
「もうこうなったらいけいけどんどんかなって!」
「意味わかんねぇ!!」


ばったんばったんとっくみあって、私は文次郎を押し倒して、馬乗りになる。
ようし、と私は体全体でなおも暴れる文次郎を押さえつけ、髪紐に手を伸ばす。
なんだか文次郎は「おまっ!それは!」とか言ってるけど、うるさいじっとしろ。


「ん、動くなって!」
「なっ!おい!」
「おっしとれた」

するりと文次郎の髪から髪紐をほどき、やったー!と思った瞬間、ぐるりと世界が反転した。ゴチンと頭を床に打つ。いたい。気づけば私と文次郎の位置は先ほどとは真逆になっていて、今度は文次郎が私に馬乗りになっている。
あれ?なんか文次郎顔赤くね??

「お前、ほんとなぁ……」
「えっ、もんじ……っん!?」

え?と思った。
なんで、私文次郎とキスしてんの??


「も、んじっ……はっ」
「なまえ……っ」
「なに、これ、……っぁ……ん、ふっ」

私に何も言わすまいと、文次郎の唇が深く私の唇と重なる。
ぬるりと私の唇を割って口内に入ってきた熱いものは、きっと文次郎の舌だ。
私の歯列をきれいになぞり、逃げる舌を捕まえて絡ませる。
聞いたこともない淫靡な水音と、体の底からカッと湧いてくる熱に、訳が分からなくなって、もうどうとでもなれと私も舌を絡ませ、文次郎の大きな背中に腕を回して抱きついた。


どれほどそうしていたか、分からないけど、「はぁっ」と色っぽい息をつき、唇を離す。
文次郎が見たこともないような優しい目をして私を見ていて、そして大きな手を私の頬にそえて親指で私の唇をさわりと撫でた。
「もんじ……」と名前を呼べば、はっと我に返ったように文次郎が私の上から飛びのく。
そして、顔をまた赤くしたと思ったら、真っ青にして、がばっと土下座をした。

「す、すまん!つい、我を忘れて!!その……」
「文次郎?」
「なまえがくの一といえど、こんな、不埒なことを……!」
「文次郎」

あははと笑って私は土下座したままの文次郎のそばによって、私が髪紐をとったから降ろされている彼の髪の毛をさらりと撫でる。

「顔あげてよ文次郎」
「なまえ……」
「文次郎は、私が好き?」
「っ!、好きじゃなかったら、あんなことしねぇ!」
「そっか。なんか、嬉しいよ」

えへへ、と笑って私は文次郎の首に腕をまわし、きゅっと抱きついた。
「おいっ」と文次郎が少し狼狽えるけど、気にせずに文次郎の胸に顔を寄せた。
どくどくと文次郎の心臓の音が聞こえる。
私の心臓もさっきからうるさい。

「私も、文次郎が好き」
「なまえ」

ぎゅっと文次郎も私を抱きしめ返す。
それから、二人で見つめあって、どちらともなく唇をまた寄せた。


キスは革命
(文次郎、風呂にいか……もん、じろう……!?)
(っな!仙蔵!!これはだな!!)
(いくら欲求不満でもなまえを襲うとは文次郎貴様……)
(違う!違うぞ仙蔵!なんでそうなる!なまえ!仙蔵になんとか言ってくれ!)
(え、イヤァァア!モンジロウニオソワレター!)
(どうしてそうなるバカタレーーー!!!)