「今日こそは……!」

そう意気込んで私は彼の家の前に立つ。今日こそは、今日こそは前に進むのだ!と私は自分にそう言い聞かせ、インターホンを押した。

少し前に、彼氏ができた。
彼の名前はルイス・セラ。ラテン系の陽気なお兄さんで、少々女タラシだけど、とっても紳士的で、人を選ぶ事なく誰にでも優しい。そのうえイケメン。

そんなハイスペックイケメンの彼は、周りの女子たちからの絶大な支持得ていて、彼の彼女になろうと必死になる女子も多かった。

私自身も彼はとてもいい人だと思っていたし、素敵だとも思っていた。こんな人が彼氏だったらさぞかし素晴らしいだろうなー、と。だけど、私よりも可愛い女の子たちが彼に「我こそは彼女にならん!」とアタックしている所を見て、どーせ私なんかとなにもせず諦めていた。
でも、ある時なぜか彼から私に好きだと告白してきて、そして私と彼は付き合う事になったのだ。自分でも何でそうなったのか、ちっともわからない。わからないけど、確かに私は彼、ルイスの彼女になったのだ。

付き合って見れば、彼との趣味はあうし、会話は弾むし、私達の仲はトントンと付き合う前以上に仲良くなった。彼と過ごす時間は楽しいし、すぐに過ぎてしまう。しかし、一つだけ私には彼に対する不満がある。たった一つだけ……

「なまえ!待ってた。さあ上がれよ」
「あ、うん、おじゃましまーす」


家から出てきたルイスに促され、中に入る。シンプルだけど、おしゃれな家具で統一されたリビングのソファーに座って、私は持っていたカバンを開けた。

「ねぇ、今日はいいもの持ってきたよ」
「え、何だ?」

キッチンからルイスがワインとグラスを持ってきて、テーブルに置く。そして、私の隣に座る。
私はジャーンと自分で効果音をつけて、それを見せた。

「ワオ、俺これ見たかったんだ!」

嬉しそうにルイスが手に取るそれは、最近発売されたサスペンス・アクション映画のDVDで、前から2人で気になると言ってたものだ。


「やっぱり気になったし、友達も面白いって言ってたし買っちゃった!」
「なまえはもう見たか?」
「まだ!その、ルイスと一緒に見ようと思って!」
「そうか、じゃあ一緒に見よう」
「うん!」

◇ ◇ ◇

ソファに二人並んでワインを一本あけながらDVDを鑑賞する。
話はもう終盤で、画面には危機を脱した主人公であるカッコイイ男性と、可憐な女性が日二人抱きしめあっているところが映っている。そして、二人は見つめあい……


「……うぉ」


大画面にこれでもかというくらいながーくて深いキスシーンがうつる。
おもわず「うぉ」って言っちゃったよ。ていうか、なんかちょっと恥ずかしいんですけど!と、となりにルイスがいるからなんか恥ずかしいんですけど!!
クッションをぎゅーっと抱いて、少し赤くなった顔を隠しながら、隣にいる彼はどういう反応をしているのだろう?と気になりチラリと横を盗み見る。
まぁしかし、彼はいたってフツーに画面を見ていた。
はぁ、そうですか。こんなので恥ずかしがってるのは私だけですか……

ちょっとヤケになって、グラスのワインをぐいっと一気に飲み干した。

ふと、私の彼に対する唯一の不満が頭に浮かんだ。
それは、付き合ってそれなりになるのに、彼は私とデートで手をつなぐ以上のことをしないのだ。抱き合ったり、キスしたり、むろんその、男女の営みといものも。
デートで手をつなぐどまりって、いまどき中学生のカップルでもキスぐらいするだろうに!
私だって、好きな人と手をつなぐことはもちろん、キスとかしたいのだ。

もしかして、私ルイスの彼女じゃなくて、ただのいい友達だったりして。
いや、でも確かに彼から私に告白してくれたはず……。それとも私の耳がおかしかったのだろうか。


「あー、すっげぇ面白かった!なぁ!」
「っえ、うん!そだね!」


うんうんとそんなことを考えていれば、いつの間にか映画は終わっていて、画面にはすっかりエンドロールで。
ルイスが「どうした?」と不思議そうに私を見た。


「っ、あの」
「ん?」
「いや、やっぱなんでもない」
「なんだよ。気になるじゃないか」


「いってみろよ」とルイスが笑いながら訪ねる。
私はちょっと迷ったけど「あのさ」と、言うことにした。
たぶん、ワインで酔ってたせいもある。


「ルイスさんは、なぜ私にき、キスとか、しないの……ですか?」
「…………えっ」
「その、えっと私たちは、恋人同士では、ないのですか?」


てんてんてんと気まずい空気が流れる。酔いのまわっていた頭がサァッと冷えた。
ていうか、私なんで敬語なんだ。

「あー、なまえ……」
「あっ!ごめん!ちょっと今のは忘れて!!」
「いや、いいさ。いい」


たぶん真っ赤な顔をしてわぁわぁわめく私を、ルイスが止める。
そして「悪かった」と言った。なんか、心なしか彼の顔も赤いような……

「わ、悪かったって?」
「なんというか、その、分からなかったんだ、なまえにどうやって、その接すればいいか」
「えっ?」
「勘違いしないでくれ。嫌いとかそういうわけじゃないんだ。むしろ大切なんだ。なまえもわかってると思うが、まあ俺はそこそこモテるし、女の子の扱いがうまい。でも、本当に大切な、なまえにほかの女の子を相手するのと同じようにして、傷つけたり、したくなかった」
「は、はぁ」
「だから、その、慎重になってたんだ。すごく」
「慎重に、ねぇ」


「ほんと、情けない」とそういうルイスに、私はぽかんと開いた口がふさがらなかった。
私が、大切?大切だから、慎重になって手が出せなかったの?

「う、うれしい!」
「え、あ、そうか?」
「うん!うれしい!ルイスが、そう思ってたなんて!わたし、てっきりルイスが私に好きだって言ってくれたのは私の聞き間違いで、実は友達だったんじゃないかと思ったりしちゃって」
「そんなことないさ!俺は、なまえが一番大切で、愛してる」
「う、うん!あのねルイス」
「なんだ?」
「私、ルイスといろんなことしたい。恋人っぽいこと、いっぱいしたい。だ、だからさ」
「ああ」
「き、キスとか、してくれないかなぁ、なんて」

エヘっと恥を承知でそう言えば、ルイスは手で顔を覆ってあーっと唸った。

「その、止められなくなっても、しらねぇからな!!」
「はい!!」


私は(なぜか)元気よく返事する。
すっと私の頬をルイスの大きな手が一度さらりと撫でて、添えられた。
ルイスの顔が近づいてきたから、私はきゅっと目を閉じた。
唇に温かい感触がして、すぐに離れる。また温かい感触。
ついばむようなキスを何度かして、それから角度を変えて深く唇が重なる。
頭がくらくらふわふわする。それに、なんだかぴりぴりと電流が走るような感覚。
息をするのも忘れて、ただひたすらに唇を重ねた。


「っ、はぁ……」
「なまえ……」
「っ、も、いっかい」
「っとにかわいいっ……」


知りたいのはキスの甘さ
(っふ……も、もういっかい!!)
(もう一回!?)