「長次、長次、どこにも行かないで。長次、お願い長次……」

深夜。誰もが寝静まった頃にいきなり部屋に入ってきて、私の胸にすがりついてそう言う彼女の背中は、とても小さかった。
なまえという女は、少々ガサツで、いつも強気で、そしてどんな時もニコニコと笑顔で、まるで女版の小平太のようなやつだ。明るい、私とはまったく正反対の、そんな女。
そんななまえがいまは私の腕の中でふるふると震えている。
どうした、なにがあったといいう風になまえの頭に手を置いて撫でる。すると彼女はさらに私の寝着をぎゅっと握ってぐりぐりと胸に顔を押し付けてきた。

「長次、長次」
「……」
「長次、ぎゅっとして。お願い」
「、ああ……」

ぎゅうっと、腕を回してなまえを抱きしめる。簡単に包み込める、小さな身体。私にはなぜなまえのこの小さな身体が震えているのかはわからなかった。しかし、その理由を聞く気にもならないので、ただ黙ってなまえを抱きしめる。
ドクンドクンと、どちらのものかわからない心の臓の音が響く。
しばらくすると、消え入りそうな声で「ありがとう」となまえがつぶやいた。

「あのね、こわい夢、みたんだ……」
「そうか……」
「長次がね、いきなり消えちゃう夢」
「ああ……」
「呼んでも、どこにもいなくて私怖くなって……」
「そうか……」
「でも、いるね。長次はここに」
「ああ、いる……」

ただの夢なのに私ったら情けない。となまえが眉を下げながら笑う。いや、いい。そんな顔をするな。と言って私はもう一度なまえをぎゅっと抱きしめた。

「私はいつでもなまえのそばにいる……」
「約束だからね長次」


こころをひと粒飲み干せば
(ぐーー)
(寝た……)