▼ 君と話す
今日は思い切ってなまえちゃんのバイト先に行ってみたよ。中に入るとバレちゃうから自然なようにお店の外から眺める。制服着てるなまえちゃんも可愛いね、きらきらして見えるよ。夜だからかおっさんとかも増えてきてなまえちゃんの事いやらしい目で見てないか不安だな。だって君はこんなに可愛くて魅力的だもんね。それに帰り道だって心配だ、もう11時過ぎてるじゃん。
そろそろあがる頃かな。店の前から少し離れていく。からら。と扉の開く音が聞こえればわざと足音をたてて彼女に近寄り声をかける。
「やあ、なまえちゃん。」
「! び、白蘭くん…!」
「外で食べてきた帰りになまえちゃんを見かけたから声掛けちゃった。…どうしたの、顔色良くないけど。」
「そうなんだ、…ううん、なんでも、ないよ。」
振り返った彼女はひどく驚いた顔をしていたが僕の顔を見るとすぐに安心したような表情を浮かべた。遠慮がちに小さく笑いゆるりと首を横に振る。…ああ、きっと疲れちゃったんだよね! バイト大変そうだもん。なまえちゃんは真面目だなぁ。
「なんでもないわけないよね、深くは聞かないけどさ。…夜は危ないし、良かったら送るよ?」
にこりと愛想の良い笑みを向けて彼女に提案をする。僕の最初の言葉に小さくごめんね、と言った彼女は次の言葉にぱっと嬉しそうな顔をした。
「ほんと? じゃああの、お願いしてもいいかな。」
「もちろん。家につくまでお喋りしようよ、僕なまえちゃんとずっと話してみたかったんだよね。」
「ふふ、嬉しいな、なんだか。ありがとう、白蘭くん。…実はね私もちょっと話してみたいなって、思ってたんだ。」
ごめんね、なまえちゃん。僕なまえちゃんの家は毎日行ってるから道なんか覚えてるけど知らない振りしちゃうね。だって話しながら道を教えてくれる君があまりにも可愛いんだもん。なまえちゃんが可愛すぎるのがいけないんだよ。
白蘭くんのおかげで今日は誰かにつけられずにすんだ。誰かがいると安心する。それに白蘭くんとも色々話せたし新しい友だちが増えて嬉しかった。お風呂から上がると疲れた身体のおかげか眠気がすぐに訪れる。さっき交換したLINEで白蘭くんに今日はありがとうと連絡を入れると可愛いうさぎのスタンプがかえってきた。白蘭くん、こんなの使うんだね、なんかかわいい。
ようやく寝ようと布団に向こうとした時、
ぴんぽーん。
…まただ。時刻を確認すると2時。せっかくいい気分だったのにさっと落とされた。ドアを確認するのも嫌で無視して布団にもぐる。
ぴんぽーん。ぴんぽーん。
何度も鳴らされるが聞こえない振り。…音がやんだ。どうやら帰ったみたいだ。ほっと一安心して布団から顔をあげる。
どんどんどん!
すごい勢いでノックされる。こんなの今までなかった、こわい、どうして? こわい。こわい。今日白蘭くんがいたから? それで扉の奥の知らない人は怒ってる? やだ。こわい。こわい。こわい。
再び布団に頭を潜らせ震えながら無理やり目を閉ざした。早く寝てしまいたい、早く朝になってほしい。
しばらくすると音がやんだ。