完結
 彼は持っていた花束を大事そうに持って、私に少しだけ近付いた。

「近所の花屋さんがもう閉まっちゃってさ。急いで買いに行ったんだ」
 がたんごとんと電車が揺れるたびにかさかさと音がする。
「家族の誕生日なんだ。この花好きだったからさ」
 花束持ってるなんて、似合わないだろ。恥ずかしいななんて言って、彼は花束に視線を移した。優しい目をしていた。しかしとても悲しそうにも見えた。下車する駅に着いて、じゃあねと手を振った。ホームから見た彼の後ろ姿を見て、どうしてかものすごく抱きしめたくなった。

 高校生になった今、聞くべきことと聞いてはいけないことが世界には存在していることは知っている。少しずつ大人になっている私たちには聞いてほしいことと隠したいことが沢山あった。それでもまだ大人になりきれていないから、上手くコントロールできなかったりする。

「今のは、どっちだったんだろう……」

 全く関係ない人間だからこそ、聞ける話もある。そして全く関係ない人間には話したくないこともある。

 難しいなぁ。
 月が綺麗だ。それでもなんだか少し悲しく見える。月がさっきとは違うように見えた。星も綺麗だ。それでもなんだか、泣きたくなった。


 いつだって悲しいことも悔しいことも、夜空を見上げていればどうでもよくなっていた。考えていたことがちっぽけに感じたのだ。
 見上げた時間によって変わる月の位置や風の音、電車の音、虫の鳴き声、夏は花火の音とか、そういうものを感じると、私は気持ちをリフレッシュさせることができた。そんな様々なことが、暗い気持ちを消してくれた。けれども今日は、まだ少し時間がかかりそうだ。
 いつもよりゆっくりとしたペースで歩く。もう少し経てば、またいつものような綺麗な月をいつものような気持ちで見れるようになるはずだ。

20131124
20160929 再修正

- ナノ -