完結
 心臓の音がようやくおさまったところでホームルームが始まるが簡単な連絡のみで終了。部活行かなきゃなぁと思ったところで教室の端から大きな声で名前を呼ばれた。

「名字帰らないでぇ」
 今にも泣きそうな顔をした水谷くんだった。

「もう本当に今日朝から言いたくて言いたくてさ。でも今日タイミング合わなかったでしょ」
 困った顔をして、でもすぐにまた嬉しそうな顔をした水谷くんが鞄を肩にかけながら言った。

 水谷くんと話す時は他の男の子と話すよりも気楽で楽しく話せる。水谷くんは他の男の子よりも雰囲気が優しいからだろうか。彼が男の子っぽくないというわけではない。しかしそんな水谷くんだからここまで仲良くなれた気がする。表情がころころ変わって嬉しそうに笑う水谷くんを見るたびに水谷くんは可愛いなぁと同年代の男の子には今まで一度も思ったことのない感情を抱くのだ。

「野球部にさ、栄口ってのがいるんだけどね。名字が流れ星を見た日に栄口も流れ星を見たんだって。それで栄口がもしも同じ流れ星を見てたなら面白いねって言っててさー」

 廊下ではやくしろと黒いオーラを出している阿部くんをちらりと見ながら、水谷くんはいつもより早口で私にそう言う。そして満足したように笑った。

「俺も、それ面白いと思ったんだ。違う場所にいて一つの流れ星を見るのって。それを二人とも俺に話してくれたなら、なんだか俺、これを伝えなきゃって思ったんだ」
 よくわからないけど、絶対に言わなきゃって思ったんだ。だから良かった。と、そう水谷くんはまた嬉しそうに笑って手を振って、また明日ねと廊下へ走っていった。


 部活が終わりにまた一人で歩きながら空を見上げた。今日も星が綺麗に輝いている。水谷くんが嬉しそうに話していたことを思い出しながら一歩一歩進む。栄口くんという男の子がどの子だか私はわからなかった。

 けれども私は、プラネタリウムのあの男の子だったならなんて思ってしまうんだ。

20130725
20160929 再修正

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