完結
 そういえば久しぶりに夜空を見上げたなぁとふと昨日のことを思い出す。野球をしている身としては昼間の天気は気にかかるものだが、夜なんて特に考えたこともなかった。帰りが雨じゃなきゃいいなぁとかそんな程度。
 流れ星は少し地味だったけど、確かに星は点々と輝いていた。もう既に忘れかけている昨日の景色に少し寂しさを感じた。どうしてだろうか、別にこれからも流れ星が見れないわけでもないのに。

 朝身体を動かすと、確かに疲れるし空腹にはなるが気持ちはすっきりする。最初の授業の教科書とノートを用意してから一つ大きな伸びをした。
 今日の降水確率は午前午後共に10パーセント。今日も部活が出来る。

   ○

 朝の天気予報の通り、今日は雨の気配もなく時間いっぱい部活をした。部室に入る前に泥を落とし、汗を拭いて今日も終わったと息をつく。

「なんかいいこと、あったの」
「えっ?」

 着替えている途中、ふと聞かれた。水谷がにこにこと笑う。水谷のその、何か聞きたくてうずうずしている顔はなんだか少し変な気持ちになって、どうしてかぎくりとしてしまった。
「あー、えっと、もしかして昨日、流れ星を見たからかも」
 俺は、本当に何かいいことがあったような顔をしていたのだろうか。そう思いながら昨日の流れ星のことを思い出し、水谷にそう言えば「やっぱりー」と嬉しそうにまた笑う。

「あれ、でもそういえば、名字も流れ星見たって喜んでたなぁ」

 水谷が不思議そうな顔をして俺を見た。
 名字、という名前に覚えは無かったが何故かあのプラネタリウムの女の子を思い出した。もし、水谷が言ったその子があのプラネタリウムの子で。もし、あの子が俺と同じあの流れ星を見ていてたら。もしも、それが全部その通りだったら……。そんなことを考えてため息をひとつ。そんな奇跡みたいな、フィクションみたいなことあるはずないのに。それに例えそれがその通りだとして何なんだ。何もならない。

「流れ星は結構普通だったんだ。でも、星が綺麗だった、ような気がする」
 へぇと水谷は少し意外そうだというような顔をした。
「その子と、俺が見た流れ星が同じだったらおもしろいね」

 その言葉は俺にとって特別意味を込めた言葉じゃなかった。ただ、水谷の言葉に普段通りのテンポで返しただけだった。しかし水谷はその言葉を聞いた途端勢いよく俺の肩を掴み揺さぶった。

「それすっごくおもしろいね!」

 水谷のきらきらとした目は、なんだかあの子の目に似ていた。暗い中、あの子も綺麗な目をして俺の目を見ていたことを思い出す。昨日の流れ星の光景は忘れかけているのに、あの子の事は数ヶ月経っても忘れられないらしい。

20130531
20160929 再修正

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