完結
 流れ星を初めて見た。
 部活帰りにぼけっと空を眺めていたら一筋の線が綺麗に空を駆けていった。しかしそれは思っていた以上に地味なものだった。三回願いを唱える暇はもちろんなかったし、それが流れ星だと気付いたのは家に帰って風呂に入っている時だった。

 星を見て、何故だかあの子の顔が浮かんだ。

   ○

 流れ星を見た。
 記憶が確かなら、実際に見たのは初めてだった。本当に流れ星って見れるものなんだ、なんて変なことを考えてしまった。その後少しだけ立ち止まって空を見上げてももう流れ星は流れなかった。あれ、流れ星って「流れる」でいいのかな。「落ちる」とかなのかな。少し考えて、視線を下げて家へ急ぐ。なんだか少しいい気分だ。

 星を見て、何故だかあの人を思い出した。



 課外授業で行ったプラネタリウムを思い返した。
 私は彼の隣の席だった。
 映画館のような雰囲気の室内。私は隣の男子なんて気にもならなかった。しかし彼は上映中ぽつりと一言「へぇ、星ってこんな綺麗なんだ」と言った。自分が褒められたわけでもないのに、全く関係ないのに、その純粋な感想に胸が熱くなった。私は今でもどうしてそんなことを言ったのかわからないけれど、彼のその言葉に「そうだよね、綺麗だよね」と反応してしまった。自分でも驚いて隣にいる彼の方を見る。薄暗い中でもしっかりと彼の表情を知ることができた。
 彼はとても驚いた顔をしていた。けれども決してイヤな顔はしなかった。そして少しだけ笑って「そうだね」と私に言って、彼の視線は再び上へ移動した。

 星を見ると私はあの人を思い浮かべるようになった。
 同じ学年の、他のクラスの男の子。普段会うことはないし、話すこともない。初めて会話したのはあの時のプラネタリウムで、その後会うこともなく、仲良くなることはなかった。知ってることは数えるほどもなくて、きっとこれからもそのまま。プラネタリウムのあの言葉すら、私は数年もしたら忘れてしまうかもしれない。

 しかし忘れてしまうかもと、そう思うとなんだか寂しいなと感じた。

20130521
20160929 再修正

- ナノ -