完結
 田島の運動神経に開いた口が塞がらない。田島は私とは違ってなんでも出来るんだな、なんてついさっき転んだ時に出来た自分の傷を見てそう思った。

 運動することが元々苦手だった。周りと比べたらちょっと下手なだけだと友達に言ったら、少し困った顔をされた。冗談まじりに彼女に言ったが、そんな反応をされてしまうとは思ってもいなく、少しだけ悲しくなった。彼女が悪いわけではない。
 学校行事で運動なんかをする時、運動部の子にいつも困った顔をさせてしまう。私もわざとミスをしているわけじゃない。泣きたくなって、何度もごめんねと言う。
 この前の球技大会では暑さのせいか、はたまたそんなマイナスな気持ちのせいか、試合の途中で気持ち悪くなって保健室で休んだ。
 私は本当に運動が苦手だ。


 同じクラスの田島は、私とは違って運動神経が良い。
 部活でも活躍しているようだ。私が今まで出会った人たちの中で一番運動神経がいいかもしれない。
 今も田島は、サッカーの授業で一点を入れたみたいだ。サッカーをしている田島は楽しそうにグラウンドを駆け回っていた。私はさっき転んで出来たこの傷を消毒しに保健室に行かなければならないことを思い出して足を引きずって歩く。

 田島が羨ましい。
 運動をするのが苦手な私は、人が運動しているのを見るのは好きだった。羨ましいのかもしれない。
 田島が羨ましい。だが、彼が活躍するのを見るとなんだかとても変な気持ちになる。田島は、私が出来ないことを笑って、何でもないようにこなしてしまう人だ。なんであんな簡単に何でもできちゃうんだろう。……私は彼に嫉妬心でも抱いているのだろうか?


 私は、高校野球を見るのが運動音痴だと気付く前から好きだった。
 家族に野球をする人がいたら、キャッチボールが出来たのにと家族によく言っていたほど。
 あの白球を自分も投げてみたかった。球児が仲間と一緒にプレーする姿をテレビで見て、カッコいいと思った。男の子に生まれたかったと、そう思っていた。運動音痴なんて気付いていない時の小さな私の話だ。
 運動音痴だと知る前に、無理やりにでも野球に挑戦すればよかった。小学生の女の子が男の子に混じってユニフォームを泥だらけにして歩いているのを見て、今までに何度も羨ましいと思った。その子と違って私は、野球のグローブも、ボールも、一度だって触ったことがなかったのだ。


 田島が羨ましい。ずるいとすら思う。
 羨ましいという気持ちは、胸の奥で年々大きくなっていった。だからか、私は田島が苦手だった。彼を見るたびに、自分の運動の出来なさを痛感するからだ。

 血が垂れている、靴下に付く前にまず水で砂を洗わなければ……。あぁ、傷が痛い。

20130206 修正
20171006 再修正

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