田島と隣の席になってから、少しずつ彼との距離が近付いているように感じた。きっと前の私だったなら、それは自分のマイナス部分を引き立たせることであり、自分にとって嫌なものだと感じていたかもしれない。
しかし、今はそうは思わなくなっていた。田島と話すのは楽しくて、田島が気にかけてくれると嬉しいと思うのだ。
「名前の今の感じって、本当に漫画。苦手で近付きたくないって思ってた男子の事好きだなんて」
「なっ、好きとかそういうのじゃ……」
お昼に友達とお弁当を食べていたら、箸で卵焼きを持ち上げながらそんな事を言われた。自分でも誰の話をしているのかなんてわかっていた。誰が聞いているかわからないこの教室でそんな話をされては困ると思って、言葉を遮ろうとすれば彼女は私の方を向いた。
「自分の気持ちに嘘付くのが一番駄目だよ。後で後悔してもしらないからね」
強くそう言われた。卵焼きを食べてから彼女は一言、もうわかっているんでしょうと優しく笑った。
わかっているんでしょうという言葉。その言葉を誰かに言ってほしかったのだろうか。私は頭で考えるよりも先にこくりと頷いていた。
田島を好きという感情を、否定したかったわけではない。しかし、最後はいじのようなものになっていた気がする。
田島が好きだ。そう心の中で呟く。何度もそう思えばその感情が確信に変化していった。好きだったんだ、そうじわじわと侵食していく気持ちは不快ではなく、むしろ心地いいものだった。その感情が、日々大きくなっていく。田島が笑うと嬉しくて、いつの間にか自分から田島に声をかけるようになっていた。
夏休みが終わって、席が隣になって、毎日が楽しいのだ。しかし、その自分の感情に気付いてもどうしたらいいのかがわからなくなっていた。彼が告白してくれたように、私も告白していいのだろうか。自分のこの感情を伝えてもいいのだろうか、そう思うようになっていた。
田島の顔を見るたびに、心臓はばくばくと破裂しそうになる。それは自分の感情を伝えようとしていた時なら尚更だ。
手が震えて、口の中は乾いて、何を言えばいいのかわからないのだ。田島はどうしてあんなにも、はっきりと自分の感情を表わせたのだろうか。
好き。
その言葉は本人がいなければいくらでも言える。けれど、彼が私に言ったように私もこの感情を伝えるのならば直接言わなければいけないと、そう思っていた。まるでそれが当然だというように。でも、そう思えば思うほど、直接言えなくなっていた。
20130221 修正
20161008 再修正