13

「…ロイさ…あ、じゃない…ろ、ロイ?」
「うん…」
「あの、萎えたら、無理しないで…?」
「…萎えてるかどうか、見てみるか?」
ロイは怖々とエドワードの自身に指を絡めた。びく、とエドワードが震えて、しかし目を閉
じてその動きを感じいっているようだった。ロイは背筋に這い上がる衝動に耐えながら、エ
ドワードの様子を見つめながら少しずつ指を動かした。
「あっ…んっ……ぁ…」
ロイの腕に縋るエドワードの、鮮やかすぎる表情に、ぞくりと身体が震えた。感じたことの
ない衝動に、負けないように手を動かす。とろり、と溢れだす先走りをなじませながら、取
り出したクリームを彼の後ろに塗りつけた。
「…んっ…ふっ……くっ!」
つぷり、と差し込んだ指に、エドワードが眉をよせた。
「す、すまない…」
「だい、じょうぶ…」
きゅ、とエドワードがロイの腕に縋る。少しずつ指を進ませ、エドワードの様子を見ながら
奥を探った。
「ほんとに?すごく…苦しそうなんだが」
中もきついし、と思いながら、エドワードを伺うと、彼はもっと奥、とロイを促した。誘わ
れるままに、指を奥の奥へと潜り込ませると、突然エドワードの身体がひきつった。
「うあっ!」
「あ、ごめ…っ」
ずる、と指を抜こうとしてしまって、エドワードがあーっとか細い声をあげる。
「ごめん、ごめんエドワード…大丈夫か?」
「い、て…大丈夫だから、痛かったんじゃなくて…気持ちいいから声が…」
「えっと、そうなのか…?」
もういちど、とエドワードの中に指を潜らせる。深く奥まで入りこむと、エドワードがまた
顔を歪めた。頬が紅潮をして、はぁ、と熱く息を吐く。
「そこ…いじって…?」
「ここ…?」
「ぅあっ…あ、あぁ…っ」
彼の身体が自分の指に反応するたびに熱が募る。ロイはエドワードに覆いかぶさって、引き
寄せられるままに唇をまた、重ねた。
気持ちばかりが先走って、思いのほかがっついてしまったらしく、離れたときにはエドワー
ドがくすくす笑う声が耳に入ってきた。
指を二本に増やしても、入れるときにしか顔をしかめなかったので、これは本当に慣れてい
るんだな、とロイは少し寂しくなる。自分ばかり焦っている気がして、面白くなかった。
そうやっていくつ、色んなものを見逃してしまったのだろうか。
後悔しても仕方ないことだが、エドワードと共にいると、自分が無駄にしてきた歳月を思い
返してしまう。それと同時に、本当に出会えてよかったと思うのだ。
「ロイ…もう…いれて…?」
「でも…」
「もう我慢できない…っ」
エドワードに泣きつかれて、拒否できる方法があるなら教えてほしい。ロイは張り詰めたそ
れを、指を引き抜いた場所にぴたりとあてた。エドワードが待ち望むようにその潤んだ瞳を
むけてくる。期待と不安と興奮、ないまぜになったその身体を、ロイはエドワードを気遣い
ながら、自分自身を埋めていった。
「ん…―――ッく、ぅ…」
ぎゅっと拳を握るエドワードの表情は固い。指とは比べものにならない質量だ。ロイもあま
りの締め付けと苦痛に唇を噛んで耐えた。エドワードは、きっともっと辛い。
「…ふっあっ…はい、った…?」
「ああ…ぜんぶ…」
大仕事だった。久しぶりだと、やっぱ辛いや、と力なく笑うエドワードに、ロイも軽く微笑
み返す。こんなことをしているのに、彼といると笑顔が絶えない。お互いを安心させようと
してしまう。もう、本当に落ちるところまで落ちたようだ。それでも構わないほど、双方が
愛しかった。
「…動いてよ…いいよ」
「む、むりだ…っ」
「きつすぎ…?」
「そうじゃない…動いたら、たぶん…」
ロイが必死に気を逸らそうとしているのに気がつき、エドワードは何をたくらんだのか意地
悪な笑みを浮かべた。ロイの腰に足を絡ませ、逃げられないように抱え込む。
「ァッ…やめ、エドワード…っ」
ぎゅっと自分の顔の横で、シーツがきつく握られる音。エドワードは楽しむように、軽く腰
を揺らした。あっと声をあがると、体内で小さく爆ぜる感触。ロイが最高に情けない顔をし
たので、エドワードは大満足だった。
「出ちゃったね」
「君のせいだろっ」
「あんたが我慢できなかったのがいけないんだろー?」
ロイさんてば早すぎー、とエドワードに笑われて、ロイはうう、と呻くしかない。
「くそ…今に見てろ」
「楽しみにしてるぜ?」
まだ固いし、な、はやく、と言ってくるあたり、エドワードは相当やりこんでいる。ロイは
ごくりと唾をのみ、そして腰を動かし始めた。
「んっ…もっとおく…あっ…そう、…すげーいい…っ」
背中に腕を回されて、ぐいっと引き寄せられる。不自然な曲がった足首をそっと抑え込んで、
ロイはエドワードを上から眺めた。とても18には思えない、とついにこぼしてしまいそうな
ほど、彼から漂ってくる色香はロイを狂わせた。自分が慣れていないからだろうか。それと
も、彼の天性の才なのか。できれば前者であるといい。これ以上おかしくなったら、もしか
したら人間として生きていけないかもしれない。それぐらい、頭が湧いていた。
「ろい…ろい…っ…うあ…っあああっ…」
自分の腕の中で悶える一人の少年に、ロイはもう夢中になって行為に励んだ。男としての快
楽を存分に味わう。今まで知らなかった、二人の人間が繋がる快楽。心も身体も全て絡まり
合って、最高の幸福感が胸を締め付けた。
「あ、も!とばしすぎ…っやあああぁっ」
エドワードがロイを押しのけようとしたが、もはや後の祭りである。誘われるままにロイは
何度も彼の中に潜り込んだ。ああ、あのとき弟がいてくれなければ、自分は確実に一線を踏
み越えたな、とロイは思った。彼には私を引きつける不思議な力があるのだ。なにせ、魔法
使いなのだから。
「ろぃ…も、あっ……しぬぅ…く、あああ…っ」
ロイにしがみ付いて律動に耐えるエドワードの辛そうな表情にさらに、支配欲が掻きたてら
れた。ざわっと内臓が蠢く。心臓がありえないくらい、今までいちばん、速い鼓動を刻みつ
ける。
「ああ、も、あああ…アッ…あぁぁああっ!」
ぎゅう、と締め付けられて、ロイもうっとまた小さく呻いた。今までいちばんの量をことも
あろうに他人の体内に吐き出してしまって、申し訳なさと快感がじわじわと身体を犯す。二
人して荒い呼吸を収めきれず、ぜーはーと大きく胸を上下させた。ロイが身を起こすと、ぐっ
たりとしたエドワードの瞳が、その指通りのいい髪が、自分の下で輝いていた。
「…綺麗だ…」
そういって、またロイは、もう何度目かも分からなくなったキスをした。
「すごく綺麗だ…エドワード」
なんだその陳腐な言葉は、と思わずにはいられなかったが、それしか出なかった。今まで芸
術も音楽も、美しいとも綺麗とも、思ったことなどなかった。だが、そんな自分でも、これ
以上に綺麗なものはないだろうと感じた。そして、こんなにも愛しかった。
エドワードはその言葉を聞いて、驚いてその大きな眼を丸く見開いて、それから、音もなく、
ほんのりと頬笑みながら涙を流した。
「…なんだ…覚えてんじゃん…」
「なんのことだ…?」
「…なんでもないよ」
甘えるように腕を伸ばしてくるエドワードに、ロイが応える。
魔法が解けていくように、熱が少しずつひいていった。それでもしっかり絡めた指が外れる
ことはなく、愛しさに包まれて朝日を待つ。また新しい世界が始まろうとしていた。


「なあ、あんたに魔法をかけてあげようか?」
ごみの中のサラリーマンは、呆けた顔でこちらを見た。丁度前から走ってきた車が、俺の顔
を眩しく照らしだす。
「…綺麗だ…」
男はそれだけ呟いた。そんな膝立ちの彼を、助け出すべく肩を貸す。そんなときに囁かれた、
なんの捻りもない一言だった。
「君は…魔法使いなのか…?」
男がぐったりと、身体を預けながら、問いかけてくる。
「そうだって言ったら?」
酒くせーなー、と笑いながらエドワードは冗談半分に、問い返した。果たしてどんな答えが
帰ってくるのだろうか。
「…こんな綺麗なもの…見たことない…」
男は言うだけ言って、ぐーすかと眠りはじめてしまった。力の抜けた身体が重い。重すぎる。
汗をかきながら、エドワードは自宅へと彼を引っ張る。ゴミの異臭も酒の匂いも最低だが、
子供のような純粋な言葉が、深く心に残っていた。
綺麗なんかじゃない。この世に、いる場所なんてない。家族も、友人も、本当の自分を、理
解してくれる人はいない。社会と折り合いをつけて生きていくのは苦しくて、自分はそこか
ら外れた、汚らしい存在なのだとずっと思ってきた。弟の、あの視線を浴びる度に。
それを彼は、一体、なんと言ったのだ?ほんと、おめでたい。
「…馬鹿な奴」
しょーがねーなー、と、エドワードは眠る横顔を見ながら思う。
「あんたも綺麗にしてやるよ」
あんたが、こんな俺のことを、綺麗だなんて言うから。
とっておきの魔法を使おう。
少しでも、彼の力になるといい。


「むーむむむー…くううううー…」
あーっ!とロイが爆発した。そして頭もヘンテコになっている。ま、七三よりはましか、と
エドワードはその悲惨な黒髪を眺めながら思った。
ロイはどうやら、自分で髪の毛を弄くれるようになりたいようだった。他にもアンチエイジ
ングだの、毒だしだの。こいつの考えることはほんとよく分からない。
「ろーいー、この若返り特集もう捨てていい?」
「だめだ!それはまだ読んでない」
ロイは鏡の前でまだ悪戦苦闘中だ。また唸り声が聞こえてきて、はーとエドワードはその雑
誌を、とりあえずマガジンラックに戻した。大半はエドワードの美容雑誌だったその半分が、
ロイのものになりつつあった。
一緒に暮らし始めたのは3カ月前。アパートを引き払い、ロイの家に転がり込んだエドワード
は、そこから専門学校に通っている。実際ロイのアパートからのほうが学校に近かったのも
有難かった。
弟とは電話のやりとりが続いている。わだかまりは消えないけれども、ロイは、彼にも分かっ
てもらえるよう努力する、とエドワードに告げた。ロイの真っ直ぐさに感謝を感じながら、
今はその言葉だけで十分だ、とも思う。
「前から気になってたんだけどさー、なんでこんなに身体の健康を保つとか、若さを保つと
か、そんな雑誌ばっかりあんの?あんただったら逆に、年相応に見られたいとか考えるんじゃ
ないかと思ったけど。ほら、威厳とか言ってさ」
髭なんかはやしてー髪もあげてー、とからかうエドワードの言葉に、ロイがさらりと述べた。
「だって老けたら君が選んだ服が着られなくなるだろう」
あーまた失敗だぁ、とロイの声が洗面所から聞こえる。思わず絶句してしまったエドワード
だが、すぐにくす、と吹き出した。
「ばっかだなぁ…何回でも選んでやるって」
そんな言葉は今悪戦苦闘中のロイには届かない。俺も出来る限り若いままでいてほしいしな。
と、ずるくも口を閉じた。
「ああああー…ううううう…」
またロイのうめき声だ。七対三にきっちりわけるのは得意でも、エドワードがやってあげた
ようにアレンジするのは彼には難しいようである。あったりまえだろ、こっちはプロ目指し
てんだからさ、と鼻で笑いながら、エドワードはやれやれと立ち上がる。
「ほーら、ワックス無駄遣いすんな。やってやるからあっちむきな」
「君が教えてくれればいいのに」
「俺は弟子はとらない主義」
それに、あんたに魔法をかけるのは俺だけでいいんだから。
あんた背高すぎ、と文句を言いながら、椅子を持ってくる。鏡の前に彼を座らせて、エドワ
ードはいつも通り囁いた。さあ、目を閉じて。
ロイの耳にはまる青い石のピアスを、確認するように指でなぞった。きっとこいつが、運命
を変えてくれた。この人の運命も、俺の運命も。素直に目を閉じた恋人の首筋に、こっそり
キスを落としながら、エドワードはその手をあげた。


次に目をあけたときには、あんたは魔法にかかってる。



end

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