3

「大丈夫か…」
「大丈夫じゃねぇよっなんでッしかもあんたに見られるなんて最悪!あっいたたた」
エドワードが前を抑える。大方、体積が増してきて苦しいのだろう。
「緩めたらどうだ」
「うっせ、…くそ、…この…」
スカートの下、がちゃがちゃとスラックスのベルトを弄くるが、どうにもできない。また悪
態をついたエドワードが、なんだか可哀そうに思えてくる。
「辛い、か?」
聞かなくても分かる。なぜなら同じ男だからだ。エドワードは何も言わなかった。ロイは怖
々と、エドワードのベルトに手を伸ばした。
「…わっ何してッやめろ!いいからほっとけ!」
「緩めてやるから大人しくしなさい」
ベルトの金具を器用にはずして、ロイはするするとそれを抜き取り、じー、とチャックを下
ろした。エドワードの男の象徴が、苦しそうに下着を押し上げているのが見える。
「…できるのか、一人で」
「できるに決まってんだろっ…何見てんだよ!」
「指にも、まるで力が入っていないのだが」
エドワードの指に自分のものを重ねて、そっと握る。
「できそうにない、ようだね」
「何、考えてんのあんた…や、やだっ!」
ロイはその下着の中に、自分の掌を忍ばせた。もうすっかり濡れていて、くちゅ、といやら
しい音がした。それがエドワードにも聞こえたのか、羞恥で顔が真っ赤になる。ロイを押し
返そうと必死なのだが、その抵抗がどうにも本気とは思えない柔いもので、それがまた嬉し
かった。たとえ薬のせいだとしても。
「やだやだっやめろっ…やだぁ…っ」
「抜いてやるだけだ。それだけだから」
「いやっやぁ…はなせぇ…あっあっ…ひあ!」
エドワードの背中に手を回し、逃げられないようにしてからロイは、とりあえず一度出さな
いと、とエドワードの性器を扱きあげた。ばたばたと暴れる足も腕も、本気で拒んでいるよ
うに見えないのがまた毒だった。すぐに無駄だと感じたのか、力尽きたのか、ロイの肩にエ
ドワードの頭が乗った。荒い息が首筋にかかる。ロイの腕をなんとかとめようと、両手はそ
こに置かれたままだが、時折漏れる嬌声を聞くたびに、錯覚してしまいそうになる。
「だめ、やめて…っやだ!やだ!…あ、ああ、アーッ!」
大きくエドワードの身体が震えた。どく、と手の中に熱い液体が降り注ぐ。早かったな、と
少し笑ってから、ロイはエドワードの顔色を伺った。
頬を赤くし、恥ずかしそうに目を伏せている。じんわりと浮かんでいる涙を、舐め取りたい
と思っても仕方ないことではないのか。そして、一度達したにも関わらず、力を失わない肉
棒に、ロイははあ、と息をついた。
「嘘…っなんで…」
「大丈夫だ、楽にしてやるから」
「ひっや、やだっやだぁァ…」
ロイは器用に、するするとエドワードのスラックスと下着を下ろした。逃れようとエドワー
ドが腰をあげ、それに乗じてソファに押し倒す。きちんと脱がして下に落とすと、シャツ越
しにうっすらと見える身体のラインに手を這わせた。
「はぅ…い、あ…いや…っ」
その手を止めようと、エドワードの掌が重ねられる。もうやめてくれ、と涙の滲んだ大きな
瞳が訴えてくる。こんなに嫌がっているのに、ロイはとてもやめてやれそうになかった。こ
んなチャンス、二度とないだろう。こんな風に、エドワードに触れる機会など。
「ああっ!」
シャツを開いて、あらわになった胸板に目を滑らせる。右肩のひどい傷、それまでの戦闘で
うけた少なくない傷が浮く、白い肌が明かりの下によく映えた。少したちあがった小さな乳
首をくり、とつまむと、嫌がりながらもひくん、と身体が反り返る。一つ一つにきちんと反
応する身体の律義さがまた、なんともいえない。面白くなって笑ってしまう。
「やっそっちは関係なぃ…っ」
「あるよ。…きちんとしないとね」
「ん…っあぁ…」
抱きしめ、肌に唇を滑らせ、もう高まりようのないほど熱くさせる。気持ちよくて何も考え
られないようにして、求めさせたい。繋がりたい。このどうしようもない子を手懐けて自分
のものにしてしまいたい。もう何年も前から、そう考えてきた。
それがいま。こんなにもたやすく腕の中に満ちる。
「ん………ん…っ」
エドワードが自分の口を塞ぐ。そのおかげで、身体のほうはもっと無防備にさらけ出された。
それに乗じて、ぐい、と膝の裏に手を入れ、大きく広げる。
「なっ…あんた、まさか最後までやる気…ッ!?」
「大丈夫だから」
そう繰り返すことしかできない。何が大丈夫なんだ。全然だめだろう。こんなことをしては
いけない。いけないけれど、止まらない。
「はあっ…ん、くっ!」
今まで話には聞いていたし、追いかけまわされたせいで嫌でも覚えた知識で、そこでなにを
するのかもエドワードは知っていた。それでもまさかと思わずにはいられなかった。本当に
そんな場所で、男を受け入れることができるだなんて。
「んん―――…っ」
ずぐぐ、と入り込んだ熱い何か。まじかよ、とエドワードは両手で口を塞いだまま目を見開
いた。つう、と涙が頬を伝う。
「すまない、痛いか。やっぱり…」
信じられないことに、圧迫感はもちろんあるが、痛みという痛みを感じなかった。ただ熱く
て、呼吸が辛いだけ。そして、認めたくないざわざわとした感覚。
「…すごい、な。熱くて…死にそうだ」
それは俺の台詞だろう、とエドワードは声を抑えながら涙を流した。こんなのひどすぎる。
「エド…」
名前を呼ぶロイの声が、なぜ自分よりも辛そうなのか分からない。こんなの、嘘だろ、と泣
いてしまう。全部夢だって言って。
「んっんん…!…んあっ!」
「我慢しなくていい」
全部吐きだしてしまおう、とロイは言った。エドワードの腕を自分の首にまわさせた。いざ
となれば、締め殺されても文句はなかった。この細い腕でどこまでできるか知らないが、や
ろうと思えばできないことはない。
「声も、顔も、全部見せてくれ」
「あ…っひぁ…っんっああっあっ…」
もうだめ、とエドワードはロイの頭を抱え込んだ。熱に浮かされて、うまく回らない頭で、
ただ必死にその背にすがる。揺さぶられるせいで余計に訳が分からない。それでも今縋りつ
けるのは、この男しかいないから。
「あああっ…や、だめ、でるっ……うう、ああぁ…」
「エド…ずっと、君が…」
その先の言葉は覚えていない。
真っ白になった頭で、何を考えていたかなんてもう分からない。その後も何度も求められた
し、考え直す暇もなかった。身体の中にずっと溜まった熱は発散しなければどうにもできな
い。正常な思考に戻りやしない。どうすればよかったというのだろう。この腕に抱かれる以
外に自分には何もできやしなかったのだ。そう思い込んでしまいたかった。


隣で起き上る気配がして、エドワードは眉をよせた。どこだここは。俺は、何やってたんだっ
け。
ぼんやりと目を開けると、こちらに背を向けて座っている男が見えた。ここはどうやらベッ
ドらしい。昨日もいっぱい飲んで、それから一体、どうなったんだろう。
「…たい、しょ…?」
「っ…起きたのか」
びくり、とこちらを振り返ったロイの顔はこわばっていた。なんでそんな顔してんだし、と
思いながら、水、と一言言うと、ロイはサイドテーブルにあった水差しからグラスに一杯注
いで、俺に差し出した。
「どうだ、気分は。どこか変なところは?」
「頭が……。……………おい」
しばらくして、エドワードは全て思いだした。残念ながら酒で記憶まで吹っ飛ばせるほど短
絡的にはこの頭はできていないのだ。グラスを持つ手がわなわなと震え始める。
「歯ぁ、くいしばれぇっ!」
「う、わああっ!」
景気良くとんだエドワードの右ストレートだが、すかっとかわしたロイのせいで方向性を失
い、うわっと前のめりに倒れた。そして腰にまったく力が入らないことで、エドワードの攻
撃力はゼロに等しくなった。
「…は、鋼の…?」
「………なんで、したんだよ…」
ふい、と背を向け、エドワードは低く呻いた。
「なんなの、あんた。ホモなの、変態なの?俺のことずっとそういう目でみてたの。まじで
?はは、そんなことも知らないで俺、あんたのこと信じてたわけ。笑える」
呟かれる呪詛の言葉に、ロイは押し黙る。今までも、こうして彼がぶつくさ言う度に流して
きた。でも本当は、傷ついていたのではなかったか。彼を好きな自分を、否定されるのが嫌
だったんじゃないのか。
「…ああそうだよ。私は14も年下な男が好きな変態だよ。8年も前からな!悪かったね、幻
滅させて!」
誰よりも君が大切で、幸せになって欲しかった。だが、一体私は彼に、昨日何をしてしまっ
たのだ?幻滅?されて当然じゃないか。
「…信じてたのに…っ」
エドワードが泣いていた。ひっく、としゃっくりあげて、こちらを見ようとはしない。ずずっ
と鼻水をすすり、何度も肩を震わせて。
「あんたは絶対…そんな風にならないって…女好きだって、まともだって!」
「…鋼の…」
「………すごく、ショックだけど…」
むくり、とエドワードが起き上って、裸なのに今更気づいて、そそくさとシーツを引きあげ
る。
「……俺じゃあ、もう無理しなくていいんだ…」
「ああそれはもう…………ん?」
何か意味の分からないことを言われたような、と思いながらロイが首をかしげると、エドワ
ードがのそのそとやってきて、その首に抱きついた。
「お、おい…エド…?」
「…な、もっかい言って…?」
昨日の夜言ってたじゃん、とエドワードがロイを促す。
「何を…?」
「俺のこと、どう思ってるか言えよ」
「…その後、気持ち悪いってなじるんじゃないのか」
「そんなことしない」
お願いだから教えてよ、よく覚えてねえんだから。エドワードはそう言って、ロイの肩に頭
を乗せた。
「………好きだ。ずっと好きだった」
ロイはそう言って、エドワードをかき抱いた。ああ今ならその拳も、ひどい毒舌もなんだっ
て受け流してやる。想いを吐露するだけでこんなにも切なく、そして暖かかっ
た。これからどんなに嫌われようとも、この一瞬がずっと、私を生かしてくれる気がした。
申し訳ない思いはもちろん、それでも好きだとおこがましい気持ちももちろん、私のなかに
ずっと残っていくのだろう。それでも、この想いと引き換えにはできない。エドワードを好
きだという気持ちを捨てるくらいなら、どんな責め苦にだって耐えて見せる。それがたとえ、
本人からの侮蔑の眼差しでも。
「…そっか……」
エドワードはそれだけ言って、満足そうに笑っていた。てっきり最低、最悪、変態!と叫ば
れると思っていたロイは、拍子抜けである。
「……殴らないのか」
「あとで好きなだけ殴ってやるよ。同意なしでレイプした件と、酒になんか盛った件で」
「ち、違うっ君が勝手に飲んだんだろう!」
「はぁ?ここまできて言い訳できる御身分かこらぁ」
分かってんだぜ、とじろりと見上げてくるエドワードに、ロイは弁解した。
「君台所にあった瓶を勝手に飲んだだろう…あれは酒じゃないから別にしておいたのに」
「あれがそういうお薬なわけ?そんな紛らわしいとこに置くほうが悪いじゃんか!」
「ハボックに押し付けられて処分に困ってたんだっ捨てるつもりでけして君に盛るためで
はっ」
「だったらさっさと捨てればよかっただろっ…ま、今はあのひよこに、一ミリだけ俺の素晴
らしい感謝を贈ってやる」
エドワードは、ねえ今日仕事休めよ、とロイをベッドに誘った。エドワードは実は非番なの
である。ロイはでも、と怖い副官を思い浮かべながら、エドワードの横に誘われる。
「…俺あんたはノンケだと思ってたんだけど」
「女性もちゃんと好きだよ。でも今は君がいちばんで…って、なんでこんな話を…」
「じゃあいわゆる先天的ホモではないわけね」
「後天的ならいいのかね」
「別に。俺同性愛くらい受け入れられる心のゆとりあるもん」
はあ?とロイが間のぬけた声をあげた。あれだけ散々ホモ嫌いを吹聴しておいて今更なんな
のだ、とロイは理解できずにいる。そんな彼の頬をエドワードが面白そうにぷにぷにと指で
つっついた。
「人造人間だって合成獣とだって一緒に旅した俺だぞ。今更ホモがなんだよ」
「…嫌じゃ、ないのか?」
「あんたにはそうなって欲しくなかっただけ」
少年だったエドワードにとって、ロイは憧憬の象徴でもあった。将来あんなふうにはならな
い、と思うところももちろんあったけれど、人間として尊敬できる人だし、色んな人から慕
われている。そんな人が、同性愛者だって分かったら、この国ではどれくらいの人が離れて
いってしまうのだろう。もし想いが通じても、結局ロイと一緒にいられないではないか。一
緒にいればロイのことだ。簡単に俺の隠れた想いを見抜いてしまうかもしれない。
「俺もずっとあんたが好きだったけど、両想いになったらあんたもホモになっちゃうじゃん。
だから嫌いなふりしてたわけよ」
たくさんの考えを含んだそれを、エドワードはロイに、こんな短い言葉で説明した。これで
納得するとは思えないけれど、その裏の真意を、彼なら分かってくれるだろう。今はまだ、
とんでもなく顔をひきつらせている、彼だけれども。
こんなに好きにならないようにがんばったのに、それなのにあんた、俺のこと好きになっ
ちゃったし。と嬉しそうにエドワードは笑っている。ロイだけその場に取り残されている。
つまりはなんだ。さっさと告白していればよかったという話なのか。ああもう、訳が分から
ないよ。
「あんたはそうはならないんだって思ってた。恋する前は、やっぱ格好いい男に憧れってい
うか、そんな感じの感情だったし…いやー叶っちゃうなんてそんな…えへへ」
なんだこの人格の変わりようは。ああもういやだ。とロイは頭を抱えてうずくまりたかった。
こっちは罪悪感で胸いっぱいの朝を迎えたというのに、エドワードときたら爽快感マックス
である。
「じゃあなんだ…私はこれからも、君を好きでいていいということなのか?」
「そうじゃないと困るし、訴えるぜ?」
俺たち恋人だよな?とエドワードは嬉しそうにロイの手をとる。そしてん、と触れるだけの
キスをしてきた。これはまじだ。本物である。本物の、まごうことなきホモである。
「……困った」
「なんで?」
「こんなのは予想してなかった」
「そう?良かったね」
俺がほんとのホモ嫌いだったら今頃あんたは仕事場に連れてかれて軍法会議にかけられてる
ぜ、とエドワードはさらりと告げた。つまりは、手綱を握られた。
暴君だって恋をするんだ、とロイは苦笑する。エドワードもずっと前から自分のことを、少
なからず想っていたことが分かって嬉しい反面、また面白くなってしまう。声をだして笑い
ながら、エドワードと軽くキスを交わした。私だってまごうときなき同性愛者だ。だがそれ
がなんだというのだ。
「エドワード、一つだけお願いを聞いてくれないか」
相手は暴君だ。だから気をつけて、へりくだってお願いしなければならない。
「一つでいいのかよ」
「…結果によっては、また増えるかも」
「都合のいい奴だな」
でもいいよ、とエドワードは頷いた。今日は機嫌がいいらしい。それはもちろんこちらも同
じだ。でもやっぱりきちんと聞きたい。
「もう一度、教えてくれないか?私のことどう思う?」
「好きだよ。大佐だったときから」
エドワードはよどみなく答えた。そのあと恥ずかしくなったのか、照れくさそうにはにかん
だ。その笑顔が可愛くて、ついロイはつられてほほ笑んでしまう。怒った姿は見慣れていた
が、こんなふうに笑った顔には慣れていないのだ。
「またひとつお願いが増えたみたいだ」
「えー?今度は俺のばんだろ」
するり、と腕を絡ませる。出会ったときにはなかった右腕が、機械になって、そして生身に
なった。彼が生きてきた象徴の一つを見ながら、ロイはエドワードの言葉を待った。
「ちゃんと薬なしでしたい。今すぐ」
「…もちろん。よろこんで」
とびっきり優しく、甘やかそうと思った。今まででいちばんにしようと思った。満足できな
いなんて言わせない。今までの分も、思いっきり愛し合おうと、朝の陽ざしの中で彼らは笑
いあった。


end



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