4


大人になりたい





ああ、まただ。
足りない何かを感じるのだ。


危ないところを救われた、というのが正しいだろう。
ひっとらえた犯人を大佐に引き渡そうとしたときのことだ。
最後の反撃、とばかりに自分の拘束を振りほどいた男は、あまりのことに動けないエドワー
ドに包丁を振り降ろそうした。
何も聞こえなくなったのは一瞬。
「大佐ッ!!」
中尉の悲鳴で我に返った。
血飛沫と赤い色。俺をかばった大人が、顔をゆがめながら男を蹴り飛ばした。
「…たい…さ…?」
「…無事か…鋼の」
真っ赤な血を右腕からどくどくと滴らせて、俺を抱きしめていた大佐。
「良かった…」
ああ。
どうして?


俺のせいだと、自分を責めるのはたやすかった。
大佐が手当を受けている救護車の外で、じっと待ちながら。
犯人は早々に護送車で東方司令部へと連行されていった。鋼の錬金術師はお前か?と聞き、
いきなり襲いかかってきたのに加えて、東方司令部の副司令官にまで傷を負わせたのだ。ど
うなるかは目に見えている。
甘かった。
捕まえて、縛りあげて、大佐に報告して。
何がダメだった?
何がいけなかった?
子供の力の拘束など、解かれてしまうなんて目に見えていただろう?
俺は馬鹿だ。
「…鋼の。そこにいたのか」
右腕をつった大佐が出てきた。
「大佐…傷は?」
「ああ、別に毒物も塗ってなかったし、大丈夫だ。傷は長いが浅いし、治るのにもそんなに
長くはかからない」
ロイは困ったような顔をして、小さく笑った。
「そんな顔をするな」
ぽん、と頭に手が置かれる。
「…ごめん」
「君のせいじゃない」
やわやわと撫でられて、エドワードは熱くなる目頭を隠すしかなかった。
「…気にするな」
大人になりたい。
俺はまだ、守られてばかりだ。
今日もまた。
これまでも、ずっと。
きっと大佐は、俺を守ってくれていた。
追いつきたい。
隣で笑えるくらいまで。
どんなに手をのばしても、今はあんたが遠すぎて。
「…あとは部下たちがやってくれる。君も宿まで送って行こう」
そう言って、車を用意しに行こうとした大佐の背中に、俺はしがみついた。
「鋼の?」
「こっち…見んな…」
何一つ、守れやしない。
自分一人でせいいっぱいだ。
情けない、自分。
「…ちょっとだけだぞ?」
あんたは優しい人だ。
俺も、あんたみたいな大人になれるかな。
大佐は俺から離れて、ああ、時間切れか、と俺はうつむいた。
すると。
「―――ッ!」
正面から抱きしめられた。
「…無事で良かった」
もう一度、大佐はその言葉を繰り返した。
傷ついた右腕を添えているだけなのに、俺を支えているのはその左腕だけなのに。
なんて強い力なんだろう。
この人は大人だから、俺がなかなか言えない言葉も、きっともう見抜いてるのだ。
「…ごめん、大佐」
見抜かれているのならと、すんなりと滑り出た言葉。
「なにがだね?」
知ってるくせに、あんたは優しいから、そう言うのだ。
ありがとう。いつも、守ってくれて。
「さあ、帰ろうか」
送って行くよ、と身を離す大佐に、俺はちょっぴりうるんだ瞳で笑った。



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