2


甘えない人





あの人が甘えているところなど、見たことがない。


ヒューズ中佐とは悪友だ。
ハボック少尉とはよく馬鹿笑いをしている。個人的なつきあいも長いようだ。
ホークアイ中尉すら、彼に対しては上司と部下の隔たりがある。
で、俺に対してはというと。
「…子供扱い?」
よーしよし鋼の。また公共の施設を壊したそうだね。たっぷり可愛がってあげるからあとで
執務室にくるように。ああもちろん、一人でね。弟に付き添わせるなどとそんな馬鹿げたこ
とはするなよ。
すいませんでした。
ごめんなさい。
俺が子供でした。


俺は大佐に散々可愛がられてから執務室を出た。
うう、と廊下の壁に額を押し付けてずーんと落ち込んでいると、あら、と肩にかかる手があっ
た。
「どうしたの?エドワード君」
女神だ。
「ちゅうういいいいい…」
「あらあら、もうどうしちゃったの?あっちで一緒に、お菓子でも食べましょう」


そうして励ましてくれる彼女に、俺は甘えて大佐へのちょっとした不満をぶつぶつと呟くの
だ。
何もあそこまで言うことなかった。嫌味の塊め!一回地獄に落ちろ、などと結構ひどいこと
を言っているが、中尉はにこにこしたままだ。紅茶に甘い砂糖菓子が絶妙にあっていて、俺
は夢中でそれを食べながら、俺が思う大佐について考えていた。
「…中尉が最初に大佐にあったのっていつ?」
「そうねぇ…かれこれ10数年になるのかしら…」
「そんなに…」
叶うわけがない。
ホークアイ中尉は、ロイと同じ時間を歩いている。
彼と共通の経験をし、この紅茶とお菓子のように絶妙なコンビネーションでお互いを救うの
だ。
「…ほんと、面白い人よね。私より年上だけど、ちょっと子供っぽくて甘くて」
「はあ?そうかなぁ…」
俺にはそんな風には見えない。
大人らしく俺に説教たれて、その言葉につけいる隙などあたえずべらべらとよくしゃべり、
ここで決め台詞、反省したまえよ。次はこれぐらいじゃすまさん。
一体、これのどこが子供っぽくて甘いのだ。
「…エドワード君が大切なのよ。でも、あの人は素直になれないから」
はた、と彼の行動を思い返してみた。
どこまでもよく回る口は、がみがみと俺に説教をした。俺は不満そうに縮こまりながら、そ
れを左から右に聞き流していた。時折聞き流しきれない痛みを伴う言葉に傷ついた。
だが、そういうふうに傷ついたから、もういちど前に進むことができたのも確か。
ロイが、自分の元に来る始末書があまりにも多くて困る、仕事を増やすな、と言っていたの
を思い出す。
本当にそうだろうか。
ロイは、たぶん事情を言えば、自分のところにくるそんなつまらない書類や仕事の量なんて
気にしない人だ。これこれこういうふうになって、だからどうしてもこうなってしまった。
ごめんなさい。と俺が言えば、いつも、仕方ないなぁ、といいつつ、苦笑して許してくれて
いたではないか。
今回だって、俺が非を認めて謝れば、彼はきっと同じように許してくれたのだろう。
大佐の愛情表現の下手さに、俺は脱帽した。
なんて、なんて…。
14歳も年上の男に、可愛いなんて思うなんて、ほんと信じられない。
「…自分ひとりでなんでもやろうとするところも、まるで子供ね」
甘えていないわけではない。
自分自身知らないうちに、そっと周囲に甘えているのだ。
だから彼は、甘えない人。
ちょっと子供っぽいかも、と俺は思って、中尉と笑いあった。
「いい匂いがすると思ったら、私に説教されたあとは中尉にべったりかね。鋼の」
「うるせえなぁ。食べたいんだったら素直にそう言えよ」
「まだ言ってない。だが、私にもくれ」
ロイも席についた。ホークアイ中尉が気を利かせて、ロイのカップとお茶のおかわりをいれ
にいく。
「…何を笑ってるんだね」
にやけ顔がとまらないくせに、俺はわらってねーよ、とごまかして、新しいお菓子の袋を開
いた。




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