1

恋のライバル The rival of love



ライバルとは常に、恋と共にあるもの。


今日も今日とて、俺は星の数ほどいる女たちに、激しい嫉妬を燃やすしかない。
「きゃー大佐よぉ!」
「こっちむいてくださぁい!」
東部に来るといつもこれだ。なんなんだ。かぐわしい大佐という花に群がる害虫め。俺だっ
て「大佐超かっこいいっ!しびれる〜!」ぐらい騒ぎたいのを必死で押さえてるんだぞっ!
ちょっとは慎め!慎みのある人間になれ!
「大佐大人気だねぇ」
「そーだな」
「おっ兄さん、大佐の人気に嫉妬してるのかな?」
「するか」
そう、俺はミーハーな奴らとは一味違うのだ。大佐のことだって足のサイズから身長まで知っ
てるし、俺と知り合ってから何人の女性と付き合ったかぐらい調査済みだ。タイプも全てリ
サーチした。金髪の長髪が好き。それとグラマーよりほっそりとした家庭的なタイプが好き
だ。そしてなにより、馬鹿な女は嫌いなのだ。すなわち、超スレンダー、超知的、超超超料
理上手な俺様にかかれば、大佐のハートなんかすぐに射落とせるわけなのだ。
ただひとつ、男だという問題を除けば。
「…へらへらしやがって、むかつく」
ああ大佐。今日もそのさわやかな笑顔でいらん虫にたかられやがって。心の中でハンカチを
噛みちぎらんばかりに悔しがるエドワードである。そんな不毛な片想いははやくも三年。そ
う、あれは出会ってから一年後、国家錬金術師の試験のすぐ後のことであった。
「私が君の過去を口外しなければ全て丸く収まるという訳だ。変な気を起こすなよ」
この言葉に俺は。
ズキューン!ときたわけです。
てんめえええっ!とか照れ隠しに叫んだわけだが、実際その男らしい背中と卑怯な言動にな
ぜか俺はときめいたわけで、人生で初めて男に恋をした。
だって大佐ってばかよわい俺になんてことしてくださっちゃうわけよ。あんなふうに流し目
くれちゃったら惚れないわけないじゃない。とエドワードは胸に手をあててほう、とあのと
きのことを回想する。なんて素敵なんだ。ふふふサディストめ。そんなとこも大好きだぞ大
佐。けして口には出せないけれども。
「大体よぉ、俺が好きだって言ったところで大佐はたぶん『そうかそうか、ドーナツ食うか
?』とか流しそうなわけよ」
そうロイときたら、エドワードのことは子供扱いもいいところなのである。
「そうだな。大佐お前のことなんか眼中になさそうだしなぁ」
エドワードの隣でブレダ少尉が頷く。その反対ではハボック少尉が煙草をふかしていた。こ
のダブル少尉が、エドワードの相談役である。
「何かしらアタックしてみたらどうだ?飯食いに行くとかさ」
「今更無理っ悪いものでもくったのかって言われるに決まってる」
はあ、とセンチメンタルになるエドワードに、少尉たちは顔を見合わせた。そろそろか、と
お互いに確認をとり、ブレダ少尉が少年に、一冊の雑誌を差し出した。
「…なにこれ」
「エロ本」
「…いらね」
「いいから見ろって」
ばさっとエドワードの前でそのページを開く。こちらに向かって大きく足を開いたり、胸を
寄せて見せる女性がエドワードに愛想を振りまいている。
「…なに」
「なんも感じねぇの、これ見て。くるもんがあんじゃねーの?」
「何もないけど」
「やっぱ、まじもんだよなー」
逆にハボックが、今度はぺらりと写真を取り出した。ロイの生着替え中の写真である。
「ぎゃー!くれよ!」
「この反応の差、悲しくなるよ」
くれくれくれ!とハボックにのしかかるエドワードに、ほらよっと写真を上から落としてや
る。はしっとつかんだエドワードがきらきらと目を輝かせる。
「うっきょー!大佐の背筋っやっばーい!」
ああ、抱かれてぇなー、と妄想に勤しんでいるエドワードに、二人ははー、とため息をつく。
「大体お前、抱かれるって意味ちゃんと分かってんのか」
写真にすりすりしている少年にハボックが聞いた。
「何って、抱っこしてもらうってことだろ?」
そしてまた重い溜息がもれた。この子は何も知らないけれど、ロイに精いっぱいの恋をして
いるのだった。
「お前さー、大佐のどこが好きなの」
「全部。…何もかも好きだ」
「じゃあ大佐に何されてもいいって思える?」
「もちろん」
大佐のためだったらたとえ火の中水の中、というエドワードにブレダがじゃあこれ、と今度
は活字の本を差し出した。
「今度はなんだよ」
「これでちょっとはお勉強しろ」
「そうそう。もうそういう頃合いだしなー」
それからもう一度、自分の気持ちについてちゃんと考えてみなさい、とダブル少尉はそういっ
てエドワードを宿へと送り出したのだった。
「いやー、あいつも長いねぇ」
「子供の恋っていいよな。見返りにもなんにもないんだからさ」
ただ好きという気持ちだけしかない。純粋な恋なのである。なるべくならそのままでいてほ
しいという思いも二人にはあるのだけれど、エドワードが先に進みたいなら、応援してやる
のもまた、彼らの役目である。
「はーあ、ただ働きは辛いなぁ」
それもはや三年、と少尉たちも長いお仕事に、そろそろ決着をつけたいのであった。




[ 1/26 ]

[*prev] [next#]
[top]



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -