3

不釣り合いな関係


何もかも、私は君に釣り合わない。


まず、年齢。
次に、社会的地位。
極めつけは、男同士。
ここまで並べば、想いが通じ合う確率はほぼゼロだ。
それでも、私はなぜだか、彼のことが好きらしい。
ついつい切羽詰まり気味の彼にちょっかいを出したり、叱ったり、口ばかりが出てしまう。
こんなんじゃ逆に、彼のような子には嫌われてしまうだろうに。
歳の差、14歳。
後見人と被保護者。
性別、男。
「…何故…」
ロイは執務室の窓から、軍人たちと一緒にドッヂボールをしているエルリック兄弟を見下ろ
した。
今は昼休み。そして久し振りに東方司令部に顔を出した彼らを、ここの軍人たちはかまいた
くてかまいたくて仕方ないのだ。
皆がそうやって甘やかすのはだめだと、なんど言わせれば気がすむのだ。
嘆息して、その様子を眺める。
エドワードはすれすれのボールをなんとか地に伏せて交わす。大人の軍人が本気で投げただ
ろうボールをあそこまでかわせるとは。さすがだ。
軽快な身のこなし、機械鎧とは思えないほどだ。
心の底から体を動かすのを楽しんでいる様子を見て、ロイは微かに微笑んだ。


「大佐、また中将からお見合いの写真が送られてきていますが」
「………処分してくれないか」
「見るだけ見てください。ご結婚なさらないのはわかっていますが、見ずに捨てるのはさす
がにまずいです。今回は貴族のご息女ではなく将軍の娘さんのほうが多いんです」
「ますます断りづらい状況になってきたな」
ロイはホークアイ中尉の差し出した見合写真の山を受け取り、いちばんはじめのものを開い
てみた。
「……ほう」
金髪。碧眼。おまけに美人だ。
ぱらぱらとめくりながら、ロイはいろんな女性を値踏みしながら、ふと、自分に釣り合う伴
侶とはどんな人かと考えてみた。
とにかく、美人だ。
少し釣り目がいい。でも瞳は大きくて、強気な性格が好きだ。
小柄で身長は小さいのがいい。私も軍部の中ではそんなに大きいほうではないし。
赤が似合う人がいいなぁ。なにより好みは金髪だ。
セミロングくらいがいい。長くのばしているとさらに良い。
頭の回転がはやくて、錬金術を少しでも知っているといいな。時折研究を手伝ってくれる口
の固くて料理がうまくて。
は、とここで思い当たる。
該当する人物が一人しかいないということに。
ちなみに鋼のが料理上手というのはすでに証明済みだった。あの年末の地獄に運悪く東部に
戻ってきたエルリック兄弟の兄のほうは、あまりの軍人たちの衰弱ぶりに驚き、食堂の台所
を借りてシチューをごちそうしてくれたのだった。
これがうまいのなんのって。とても表現できない味だった。家庭的で柔らかく、優しい味が
した。
何故こんなに料理がうまいのか、と聞くと、彼はほんの少し照れた表情で、母さんの手伝い
とか、ピナコばっちゃんの手伝いとかよくしてたから、と答えた。
こうしてロイはまた、現実を思い知らされるのだ。


釣り合う、釣り合わない以前の問題なのだ。
この先、あの子以上に好きになれる人なんかいるんだろうか。


と、下にいたエドワードが顔をあげた。
ぱちり、と二人の視線が絡み合う。
ロイは思わず、ぎこちなく笑って手をふってみた。
それを見たエドワードはぱちぱちと二回目を瞬いた後。
嬉しそうにはにかんで手を振り返してくれた。
ああ、なんだ。これだけでいいのかもしれない。
笑顔を交わすだけで、何かが伝わった気がしたのだ。
歳の差なんて。
社会的地位だなんて。
性別なんて。
本当は、本当は私が、気にし過ぎているだけかもしれない。
本当の気持ちは、もっと単純で。
ばんっ
笑顔で手を振っていたエドワードがふっとんだ。
顔面にボールを受けて。
そういえば、彼はドッヂボールの最中だったのだ。


頭だから、セーフだよな?
笑ってはいけない、と思いつつ、肩を震わせながらロイは、口元が引きつるのを抑えきれな
かった。



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