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劣等感ばかり

年をとると、劣っていく気がする。
それを実感するのは、やはり目の前でぐんぐんと成長する君がいるからだと思う。


「また君はあれほど言ったのに地方司令部の一部を破壊したそうだね?え?この前私がなん
と言ったか覚えているかね?今回はこれだけの被害で済んで錬金術ですべてまかり通ったか
らいいものを、この前のガス爆発で君が吹っ飛ばした事件記録の被害総額はどれくらいか、
私はきっちり君のその優秀な脳みそに叩き込んだはずだが何かの間違いかね。いったいどれ
だけ金をかければ気がすむんだ?そんなに新聞にのりたいのか?だったら国家錬金術師から
ラジオアイドルにでも転職したまえ。漫才コンビエルリック兄弟、きっと名をあげるだろう
よ。アメストリス中で有名になれるぞ。安心したまえ、ラジオでは背丈はわからないからな。
君がどれだけこの世界で小さくとるに足らない存在でもどこまでも人の想像を膨らませてく
れるだろう。…ともかく、自分の行動を振り返って反省したまえよ。次はこれぐらいじゃす
まさん。下がりたまえ」
出て行った赤いコートの背中を見送って、ロイはがくっと机に倒れ伏した。
「…疲れた」
ずる、と右横に首を回すと、エドワードが今回の事件で壊した地方司令部での被害や、それ
についての始末書や報告者が山積していた。
「…目もあわせやしなかったな」
まったく、餓鬼はこれだから困る。
と、思う割にはそんなに困っていない現状に、ロイは苦笑した。
こうやってふてくされている間も、書類がなくなってくれるわけではないのだ。
少しやったら、エドワードの様子を見に行こう。
きっと今頃、中尉にお菓子でも食べさせてられているだろうから。


予想はあたっていた。
エドワードは怒られたことなどどこかにすっとんでしまったのか、彼女と午後のお茶を優雅
に楽しんでいたのだから。
とても良い香りに誘われて、私は作戦室へと足を踏み入れた。
「いい匂いがすると思ったら、私に説教されたあとは中尉にべったりかね。鋼の」
ほんの少し嫌味もこめて言ったのだが、エドワードは全然気にしていないようだった。私自
身も言いたいこと自体はすでにがっつり言っておいたので気が済んでいたから、とくに言及
もせずに彼の隣の席についた。
「うるせえなぁ。食べたいんだったら素直にそう言えよ」
「まだ言ってない。だが、私にもくれ」
ホークアイ中尉が気を利かせて、ポットを持って立ち上がった。おかわりのお茶と、私のカッ
プを取りにいってくれたのだろう。
新しいお菓子の袋をとりながら、にこにこしているエドワードに、ロイはいぶかしんで声を
かけた。
「…何を笑ってるんだね」
笑ってねーよ、という小さな声とともに、ばりっと袋を破るエドワード。
「大佐…さっきは、態度悪くて、悪かったな」
そう。
感じるのはどこか、何ともいい表わしがたい想いなのだ。
しいて言うなら劣等感。
その素直さに。
成長する心に。
私が嫉妬する瞬間なのだ。
「…反省したなら、もういい」
ぽん、と頭をなでると、エドワードは何も言わず、照れ臭そうに笑った。
ああ、こんな顔を、私にも見せるようになったんだな。
無防備で、幼くて、つたなくて、なんと愛しいことだろう。
「……このお菓子、うまいな」
「うん。クリームが絶妙」
二人で同じお菓子を食べて、中尉が持ってきてくれたお茶をすする。
三人で囲むテーブルには、甘い甘い砂糖菓子。
それよりも甘い、君の無邪気な笑顔。


そんな笑顔で笑っていた私も、きっと遠い昔にいたのだろう。


感じるのは、しいて言うなら劣等感。
それ以上に、羨望してしまう。
君のその、輝くような笑顔を、守りたいと思うのは。


きっと、私のエゴだから。


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