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年下に恋をした I have loved the younger child.

後何年か若かったら


たとえば、あと4歳若かったら。
お兄さん、だろうな。すくなくともおじさんではないだろう。10歳離れた兄弟なんてざらだ。
14歳差はきわどい。兄弟、と言えなくもないし、やろうと思えば親にだってなれるかもしれ
ない。
だから、今の君との年齢差を思うと、、私はおもわずなんともいえないため息をついてしま
うのだ。
ほんの数年、若かったなら、君との距離は縮まるだろうか。


たとえば、同い年だったら。
私と君はほどよい距離の悪友となっていただろうか。
よい例がある。ヒューズはなかなか、私と気が合う親友だ。だが、君とは全然似てないな。
君は今まで出会った誰にも似ていない。唯一の人だ。
私にかけているものを埋めてくれる、思い出させてくれる、包んでくれる、大切な人だ。
こんな風に思っているなど、君は知らないだろう?


たとえば、君より年下だったら。
…ちょっと、考えられないな。
まだ幼さが残る君を眺めながら、成長していく君をみながら、そのままであってほしい心と、
もっと強くなれと願う気持ちがある。
年下だったら、君はお兄さんだから、よく面倒を見てくれたかもしれない。
こんな大の大人になってすら、君に大人げなく意地悪をしてしまう私もいるものだから。


たとえば、今の年齢が逆転したら。
君は立派な大人で、私はきっと生意気な餓鬼だろう。
きっと出あってすらいないのではないだろうか。
君はどんな大人だろう。
きっと魅力的な人だろうね。
15歳の私も、君に恋をするだろうか。


後何年か若かったら。
考えたって、きりがない。


「あっつッ!!」
ロイは思わずしゅわわっと飛び散ったお湯があたった手の甲を引っ込めた。
あまり水を入れないで火にかけたので、熱せられたやかんの鉄の部分でお湯がはじけたのだ。
それがマグカップに注ぐ際に、ロイを襲い、今も指を口の中につっこみながら顔をしかめて
いた。
「なんか変な声したけど、大佐?大丈夫?」
給湯室に顔を出してきたのはエドワードだ。
どうにも目立つ風貌をしている彼は、軍部でもマスコットのような役割を果たしているのか、
女性士官やそっちのけがある男性士官の人気を集めている。
美しい金髪に光によって色が変わる瞳。顔の造形も整っている。
それはそれは、人々の妄想を煽ってくれるようで。
「…ああ、大丈夫だ。ちょっと火加減を誤っただけだよ」
「焔の錬金術師が?」
「コンロの火は苦手だ」
コーヒーを運びながら、二人で執務室に戻る。遅くなったのを心配したのか、どうやら彼は
給湯室まで向かえにきてくれたようだ。
なんとなくうれしく思いながら、二人分のマグカップを運んでいると、じっと見上げてくる
瞳に出会った。
ああ、なんど見ても綺麗な色だな。
なんてことを思ったので、エドワードの言葉を思わず聞き逃してしまっていた。
「――――っていつ?」
「は?」
「だから、大佐の初体験っていつだよ」
一体なんの初体験だね。
「そうだなぁ。はじめて錬金術を使ったのは11歳のときで…」
「んなこときいてねーよ!てーかなにしらばっくれてんだよっ」
「初体験って…まさか童貞なのを気にしているのかね」
「い、言うな…。はやく俺は大人になりてえんだよ」
できればずっと童貞のままでいてほしいんだがね。私は。
と心の中でこっそりと呟く。だが、彼がまだ純潔だと思うと、少し嬉しい。
「…でもさ、やっぱはじめては好きな人とやりたいじゃん」
伏せた瞳に少し赤らんだ頬が愛しかった。
好きな人でもいるのだろうか。
「それとも、男のくせに出し惜しみすんなって思う?」
「そんなことはないさ」
ぽんぽん、とエドワードの頭を撫でてやる。
「私も初めてのときは、そのときいちばん好きだった人としたよ」
「…そっか」
「ま、焦らなくていいさ。君には目標もあるんだし、おつきあいしてくれそうな女性もいな
いだろうしな」
「俺だってやろうと思えば彼女くらい作れるっ」
確かに。そこのお姉さんに声をかけてみたまえよ。ずっとこっち見てるぞ。
「そういうことにしておいてやろう。さあ、報告が山積みだぞ?一体どうしたらこんなに始
末書の山を作れるのかね」
「お、れのせいじゃねえやつもたくさんあるんだからなッ」


この小さな背丈から、この目線から、どんな風に世界が見えている?
私は同じ場所にたって、景色をながめて、果たして、君と同じ気持ちを感じることができる
のだろうか。
考えたって、仕方ない。


どう足掻こうが、私たちの立ち位置は変わらないのだから。
「行くぞ、鋼の」
こうやって君の前を歩くこと。それが、今の私にできること。




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