Story
あたたかな眼差し
ロトメア教の修道院の前、茶髪の髪の少年が黒い修道着に眼鏡をかけた女性に食いついている。
「何でノウィを助けてくれねーんだよ!
助けを求める者には誰しも治癒術を施すんだろ!」
見れば少年セオン=リオデルの衣服や肌は薄汚れ、傷があちこちに付いている。しかしどれも消毒で済ませられる程度のものばかり。
治癒を必要とするほどの痛手を負っているのは彼ではない。その彼の両手に抱えられて丸くなっている、白く毛長の小動物。
セオンの指の間から見えるその生き物の小さな体には、自身の毛の色を赤く染めている。
眼鏡女性は冷ややかな視線を絶やさず彼を見遣る。
「貴方のような野蛮なギルドの者に、増してや得体の知れない生物に、治癒術を施す為に修道院がある訳ではありませんので。」
淡々と返答し、黒衣を翻して建物内に引き返す。
セオンが引き止めようと試みる以前に、その姿は修道院の中に吸い込まれていった。
2人のやり取りを遠くから見ていた人影が、恐る恐るセオンに歩み寄る。
「あの、すみません……」
恐る恐る、手を包み込むように胸の前で組んでいる少女が、セオンを見つめていた。琥珀色の瞳と濃い桃色の髪の色をしており、頭上の二つの毛束は白百合にも似た髪飾りで留めていた。
少女は所在なさげに瞳を揺らし、一度きゅっと瞼を閉じて、開く。
「私に、その子を看させて下さい。」
はっきりと告げるその目は真っ直ぐな光を映していた。
「ほんと、か?」
震える声で尋ねるセオンに、桃髪の少女は暖かな春風に包まれた眼差しを向けて告げた。
「はい。
きっと、元気にしてみせます。」
あたたかな眼差し
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