「え…?」


誰もそれ以上言葉を発することができず、悠太を見つめた。



「ゆうたん…?」
「おい悠太…お前まさか…」
「記憶…喪失…?」


悪い夢であってほしいと願う祐希の耳に、誰かがそう呟くのが聞こえた。



それからしばらくして、両親が病院に駆け付けた。
要、春、千鶴は家族に気を遣い帰って行った。
悠太と話すうちに、悠太が忘れてしまったのは祐希、要、春、千鶴のことだけだとわかった。
自分が浅羽悠太だということは覚えていたし、クラスメイトの名前も知っていた。
今だって悠太は両親と何事もなかったかのように話している。
なのに、双子の弟、そして恋人である祐希や、行動を共にしている3人のことは何も覚えていないのだ。


「……」


両親と話す悠太を見てその現実がずっしりとのしかかってきた。
少し前まで祐希に向けられる目は両親へのそれと同じ、あるいはそれ以上に優しいものであったのに。
今の悠太の瞳には全く知らない人として映っている。


祐希の胸に怒りが溢れてきた。
ボールをぶつけた誰かに対するものと、自分に対するものと。
悠太が倒れる直前、祐希は誰かに腕を引っ張られた。
それは悠太だった。悠太が祐希を守ったのだ。
そうでなければ、ボールは恐らく祐希に当たっていた。
なぜもっと早くに気付けなかったのか。
祐希は自分を責めた。


悠太はそのまま入院することになった。
別れ際、悠太は何も言わずに祐希を見た。
家へと向かう車の中で祐希は唇を噛み締めた。




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2012.11.22


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