紅の蓮


スラムの端を占める煉瓦造りの一角にその店はあった。


・・・確かに、他とは違うようだ。


スラムの辺りにはギラギラした奴等が所々にいたものだが、この近くになると、もはや人の影もなく、鳴きわたっていたカラスの声すらもしない。


・・・・・・・・・紅の蓮、か。
危ない奴等が集まるっていう割には、洒落た名前の店だな。




「・・・・・・・・ここだよ。」


「のようだな。」


「あんた、本当に大丈夫なのか。」


「まァ、大丈夫だろ。」


「・・・・・・・・・死ぬなよ。」


「お、なんだ、心配してくれてんのか」


「なっ、ばッ、バカ野郎!ちげーよ!あんたが死んだらテンもセイも悲しむだろっ!!!」


「はっはっはっ、そうかそうか。」


「・・・・なっ、ホント何なんだよ!!!」


「まァ、そう怒るなって。あ、そうだ、そら、報酬だ。道案内ご苦労だった。それでしばらくは食っていけるだろ、もう、盗みなんてすんじゃねェぞ」


「・・・・!!おまっ、こんなに・・・・・!?」


道案内にくれる額じゃないぞ・・・・・・・!!!



「さ、帰るんだ信。ありがとうな。」


髪をワシャワシャと撫でられた。おい、なんで、最後にそんなことをするんだ。
俺は、子供じゃないんだぞ・・・・!


気づいたら言葉が口からでていた。


「・・・・・・・・・俺達は、待ってるからな・・・・!!」


「ああ。待っとけ。」


「俺は!まだ、あんたに借りがあんだからな!!だから、また来いよな!!!」


俺、役所に連れられそうになったとき、ホントは、もう駄目かと思ったんだ

「ああ。行くよ。」

ホントは、俺みたいな奴を助けてくれて、嬉しかったんだ!

「俺は、俺はっ・・・・・!!!」


「分かった分かった。大丈夫だ。私は死なないから。ほら、泣くなよ。」


いつの間にか涙がボロボロ出ていて、


「なっ、泣いてなんかいない!!目にゴミが入ったんだ!!!」


そうか、俺は、コイツが大好きになっていたんだと気付いた。


「そうかそうか、お前も大変だなァ。じゃあ、信、俺は行くから。またな。」


そう言って歩き出した背中は、俺に母親がいたら、こんな風に見えるのではないかと思えた。


俺、強くなるよ。そして、あんたみたいに、俺みたいなどうしようもない奴らを助けてやれるような、そういう、格好いい大人になるよ。


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